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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

欧州金融市場の高まるリスクとともに、通貨市場のボラティリティが高まる可能性

欧州金融市場にリスク高まる

10月に入り、国際金融市場にはいくつもの不安材料が並ぶ。世界中のあちらこちらに埋められた地雷がいつどこから、どのようなきっかけで爆破され、次々と誘爆が起こり、金融市場全体が危機に見舞われるのか、ヒヤヒヤものである。

一連のリスクの大きな要因としては、11月の大統領選挙、12月のFRBによる利上げ、そして、地政学的には、シリア情勢や北朝鮮をめぐる米ロの対立がある。このところのアレッポ奪回に猛攻撃をかけるアサド大統領に対し、米ロの和平交渉は完全に決裂している。

欧州の金融市場では特にリスクの高まりが感じ取られる。まず、ドイツ銀行は住宅ローン担保証券の不正販売で米国法務省から和解金140億ドルを支払うよう求められ、同行の株価はこの2週間で急落し、債券価格も下落した。さらに同行のシニア債のデフォルト懸念が高まり、保証料が急上昇している。実際にデフォルトに陥る可能性が高いわけではないが、同行の抱える大量のデリバティブに関して潜在的な損失額に懸念が高まり、この不安がさらに同行の株価を押し下げるという負の連鎖が起こっている。カタール政府系ファンドが同行への投資で10億ユーロ相当の損失を出したと報じられている。

ドイツ銀行に関する参考記事
”The 4 scariest charts from Deutsche Bank’s dramatic sell-off” (10月3日付)
http://www.cnbc.com/2016/10/03/the-4-scariest-charts-from-deutsche-banks-dramatic-sell-off.html

多くの投資ファンドではこのような急激な損失が起こると、それ以上の損失を防ごうと流動性の高いリスク資産を売る行動に出る。こうしたリスク回避の動きは、2007年のサブプライム・ショックでも見られた。2007年6月に当時のベア・スターンズ証券が抱えるサブプライム仕組証券に信用リスクが高まり、同様の仕組証券を抱える多くの投資家が急激な損失を避けるために流動性の高い株式や優良資産を一斉に売り、相場が崩れ始めた。こうした投資家の一斉の売浴びせが翌年のリーマンショックの導火線となっていった。

今回の欧州金融市場では、英国発リスクも要注意である。メイ首相は来年3月までにEU離脱交渉を始めるとし、英国ポンドは下落し、対ドルで31年来の安値となった。EU離脱にさいし、英国内の銀行はEU加盟国へのアクセス権を失う可能性があることに国内の金融セクターは懸念を示している。

もう一点、イタリア国債市場に関しても懸念がある。イタリア財務省は5日に50億ユーロの50年債を発行した。伊国内の金融セクターの健全性に不安が残るなか、高利回りを求める投資家の買いが入り、需要は底堅いと報じられた。しかし筆者は、ソブリン債を始めとする信用市場が既にバブルのピークに近づいていることを示す事由と受け止めている。

 

通貨市場とボラティリティ

以上述べたような金融市場の動向を、通貨市場とボラティリティの観点から見るとさらに興味深い様相が見えてくる。筆者が一目置くサイモン・デリック氏(BNYメロン銀行の通貨ストラテジスト)は、2007年からの通貨市場の動きを以下のように分析している。

まず、2007年6月22日にベア・スターンズ証券のファンド破たんへの救済が始まった。これを起点に急激なショートポジションの巻き返しが始まり、以後5ヶ月続いた。それまで低かったEUR/USDのボラティリティが急上昇した。2007年12月から円キャリートレード(信用力が高く借入コストの低い円で調達し高利回り通貨や債券に投資する)の巻き返しが起こった。その後4年間にわたり円高となった。

2008年のリーマンショック後、各国中央銀行の金融緩和策(QE)が相次ぎ、2011年から14年までEUR/USDのボラティリティも沈静化した。円高も沈静化し、2012年12月の第二次安倍内閣とアベノミクスの登場と同期して円安に転じている。さらに、その後のゼロ金利/マイナス金利の導入により、EUR/USDのボラティリティも凪のように静かである。

デリック氏も指摘する通り、長い凪の後には嵐がやってくる。嵐の予感は12月のFRB利上げに感じ取られるものの、既に日本国債や伊国債などソブリン債はオーバーシュートしており、中央銀行相場の終焉を物語っている。これは、円高株安を意味し、円安株高に支えられたアベノミクスの終焉でもある。

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