ECBさらなるQE、TLTROsやABS購入でリスクマネーは成長戦略へ?
6月第一週には、Dディ70周年、天安門事件から25年に加え、ECB 利下げにより、主要国で初めて預金金利がマイナスになるという歴史的記念日が重なりました。
FT紙のウィークエンド版の挿画——ノルマンディー上陸作戦の兵士に扮したドラギECB総裁と札束、うしろに控えるQE印(クィーンエリザベス号ではなく、量的緩和Quantitative easingの略)の大型船—— が、多くを示唆しています。QE号はこれから陸地に近づいてきます。さらなるQEで欧州の中小企業へリスクマネーを回し、欧州版「成長戦略」を支える産業金融を整備する必要に迫られています。
欧州の企業金融においては銀行の力が強く、資本市場で資金調達を行う直接金融が発展した米国型と異なり、どちらかというと銀行と長期のリレーションを重んじる日本のメインバンク制度に類似しています。欧州では、中小企業の資金調達はほとんどが銀行からの融資(間接金融)で、雇用もまた中小企業に支えられています。ドラギ総裁の政策で注目されるのは、中小企業への融資を促すTLTROs(ターゲット付長期リファイナンス・オペレーション)です。手始めに4千億ユーロの規模で実施されます。また、ECBではTLTROsに加え、資産担保証券(ABS)市場におけるアウトライトの資産購入に関して準備作業を始めています。ABS購入など直接金融に近いところで活きた資金を循環させる動きに注目です。
TLTROsとは
TLTROs= Total Long term refinancing operations
ターゲット付長期リファイナンス・オペレーション = 特に家計や企業に対する新規融資を提供するさいに、市中銀行が低利で融資をするために、上限金利を ECBが設定
LTRO= Long term refinancing operation
長期リファイナンス・オペレーション =市中銀行に低利の融資を提供
ECBはこれまで、LTROにより市中銀行に低利の融資を提供してきた。TLTROsでは、長期流動性供給オペ(LTRO)の対象を絞るため、家計や企業に対する新規融資実績に応じた上限金額を各行に設定する。
これまで行われて来たLTROでは中小企業への貸出が伸びないために、今回のECB理事会ではTLTROsを行う判断したのではないかと思います。現状、銀行はBIS規制によりリスク・アセットを積めません。また、マイナス金利にして、預金をおいておくとペナルティをとるので、とにかく貸し出せという、無理矢理なやり方です。銀行では融資の審査はあるので、新規の融資をどれだけ行ったかという実績を示す事で、上限金利を設定するぞといって、ECB(中央銀行)が市中銀行を脅しているようなものです。それだけでは十分でないため、直接金融的な手法である、ABS購入も合わせて行うという思惑なのではないかと思います。
日本でもこのところ、「資本性ローン」の導入など、政府系金融機関が中小企業の資金調達を助けています。そもそも、日本では、欧米と異なり、起業から成長初期段階にかけての企業金融において、日本公庫や商工中金といった政府系金融機関が重要な役割を果たしています。さらに、市町村単位で小口の融資を行う「信金・信組」、都道府県単位の「地銀」、全国レベルの「商業銀行」と、事業の成長ステージに合わせた「融資エスカレーター」構造が整備されてきました。(注)
米国では、起業や新規事業に投資するベンチャー・キャピタル、成長著しい未公開企業の資本に投資するプライベート・エクイティ、企業が直接ジャンク債や資産担保証券(ABS)を発行して資金調達を行う直接金融が発達してきました。欧州の金融市場は、日本と米国の中間あたりに位置します。
日本の間接金融型では銀行がBIS規制によりリスクマネーが収縮し、さらに銀行が企業から貸し剥がしを行うといった問題が見られます。また、米国の直接金融型では、投資銀行の行き過ぎたアニマル・スピリットがリーマンショックを引き起こすなど、常に資本市場には潜在的なシステミック・リスクが伴います。興味深い事に日米は景気刺激策として強力な量的緩和を行い、米国が量的緩和縮小に向かう一方、日本は日銀が国債購入による緩和策を続けています。欧州でも成長資金をいかに中小企業に回すかがキーとなります。
一方、日本では、目先の景気浮上の目的で、政府が資本市場に政策的な介入をする歪さが目立ちます。官製ファンドが乱立し、GPIFの運用方針変更で12兆円が日本株へ配分される動きなど、政府が資本市場を操作することで成果を急ぐと、かえってモラルハザードが起こり、健全な資本市場の発展が阻害されます。結果、長期的なリスクマネーが新規事業の成長に回らなくなるという逆効果となります。
注: 参考文献 小松啓一郎「中小企業金融行政に見る日英の産業・企業文化」日本政策金融公庫論集第18号、2013年2月)
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