不安定化する世界情勢、中央銀行の金融政策は効かなくなる
不安定化する世界情勢
週明け、アイシス(ISIS: Islamic State in Iraq and Greater Syria)というイスラム過激は集団がシリア内戦に加え、イラクで北西部の都市を制圧し、首都バグダッドに迫り、情勢が緊迫化しています。世界は、エジプトの軍事政権からウクライナ、そしてパキスタンに至るまで一気に不安定化しています。中東では、イスラエルで3人の青年がハマスに連れ去られるという事件が発生。また、タイでは軍事政権下、カンボジアからの移民労働者が抑圧を恐れて国境を越え、自国に戻る様子がBBCで報道されています。また、インドのモディ新首相はブータンを訪問。対中国を意識しています。今のところ、米国が軍事行動を起こすとは思われません。金と原油価格が上昇しています。
今週はこうした不安定化する世界情勢を睨み19日のFOMCが注目されます。
FRBは早期の利上げを行う可能性は少ないと見られていますが、実際にはFRBがどのような政策を取ろうとも、ITバブル、住宅バブル、QEバブルとバブルの生成と破たんを繰り返すごとに、従来の金融理論では現実が説明しにくくなっています。
市場参加者の集団行動は予測不可能となりつつあり、中央銀行の金融政策は効かなくなる
往年のエコノミスト、ウォジンローア博士は以下のように指摘しています。
昨年5月にバーナンキ議長の突発的な「テーパリング」(量的緩和縮小)発言がマーケットにショックを与え、同年末までに長期債利回りは1%以上も上昇しました。そのため景気回復が遅れ、FRBはテーパリングどころか債券購入を続けざるを得なくなりました。ディーラーや市場参加者はテーパリング開始となれば債券価格が下落すると見込んで、債券ショート(空売り)ポジションを取り、その結果、債券価格は下落し、利回りが上昇しました。住宅ローン金利も上昇し、住宅建設業者の回復を遅らせ、実体経済にはマイナスの影響を与えました。
ところが、今はイエレンFRB議長が粛々とテーパリングを進めているにもかかわらず、米国長期国債の利回りは0.5%近くまで下げています。テーパリングは景気改善の証しだとマーケットが認識しています。
このように、景気見通しがよくなったから長期金利が低下するといった現実を、従来の景気循環論では説明できません。なぜか。ディーラーや市場参加者が集団で引き起こす素早いポジションの動きが、為替レートや金融資産価格を変動させます。彼らの集団行動を、FRBといえでも、予期してコントロールすることは難しいのです。バブルのサイクルが繰り返されるごとに、市場参加者の集団行動は予測不可能となりつつあり、中央銀行の金融政策は効力を薄められて行くようです。
ウォジンローア博士の今後の見通し
ウォジンローア博士は今後の米国経済については、以下のように述べています。今年後半のGDP成長率は2.5%から3%のペースで維持されるものの、個人消費は過剰信用で伸び、自動車販売も伸びてはいるものの、それは貯蓄を切り崩しての消費で、これ以上の伸びは期待出来ない。また、米国では内需が拡大すれば、欧州、特にドイツからの輸入を吸収します。米国にとって輸入コストが安いことから、内需が国内で拡大するのは限定的で、成長も短期的と見られます。さらにドル高から、FRBも短期金利を上げることはないと思われます。
山広恒夫記者の今後の見通し
FRBウォッチャーとして著名なブルームバーグの山広恒夫記者の見方は、もう少し悲観的です。ウォジンローア博士が長期金利の不安定さに注目したことに対して、山広氏は政策金利(FFレート)に注目します。FOMCは政策金利を上げることで過去2回のバブルを沈め、ほぼ同時に景気後退を招いてきました。
山広氏の示すチャート(1)はS&P500種株価指数とFFレートの相関図です。
黄色線がFF金利誘導目標。白線がS&P株価指数。赤の縦縞は景気後退期です。
株価は1990年代から現在まで二つの高い山と深い谷を形成し、現在三つ目の山の山頂を目指しています。山の高さは徐々に高く、谷は深くなってきましたが、三つ目の山は極端に高く、異次元の世界へと向かっているかのようです。これは量的金融緩和が株価を大きく押し上げてきたうえ、ゼロ金利の継続でバブルの膨張期間が長くなっているからでしょう。
チャート(2)はFRBのバランスシートの資産総額(白線、右軸単位は兆ドル)とS&P指数(黄色、左軸)の相関です。
二つのチャートから、山広氏は「異次元緩和に伴うバブルは、異次元へと膨らんでいき、その反動によるバブル崩壊の衝撃も異次元へとつながっていきます。この衝撃は一人アメリカにとどまらず、異次元緩和を続ける日本やヨーロッパをも巻き込み、グローバルに拡散していくことになりそうです」と評します。
日・米・欧州の中央銀行で異次元緩和が続く中、一方ではアイシスといった恐ろしいテロリストが世界を跋扈する—— ペルシャ湾に米国艦隊がイラク情勢を睨んでいます。この異常な状況でファットリスクが膨らんでいます。
(注)チャート出所 ブルームバーグ Bloomberg
(注)アイシス ISIS = Islamic State in Iraq and Greater Syria
イラクの少数派であるスンニ派は国家から独立し、隣国シリアへ勢力を拡大し自主独立圏樹立を求めている。
詳細は、CFRサイトでご覧になれます。
コメントは終了ですが、トラックバックピンポンは開いています。