グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

Q1 長期投資と安定運用の極意とは?

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A.

①  金融とは人助け、投資運用とは次世代へ希望をつなぐことであり、勝たなくてもいいから負けない、負けなければ生き残れる

②  短期的な大きな利益よりも、目標リターンに向かって安全な運用を優先する

③  資産と運用における分散、全体の流動性に関わる管理をしているオルタナティブ運用ポートフォリオをつくり、絶対値の収益を確保する

④  マーケット・サイクル(金融市場のサイクル)を読み、プロアクティブなポートフォリオのアロケーションを行う

⑤  トラックレコードがしっかりした絶対値収益を創出する最良の運用者(マネジャー)を選定する。セルサイドの情報だけを信じない。

 

私は1985年に米国に留学してから2007年まで、主にウォール街で過ごしました。きっかけは1989年にムーディーズ本社ストラクチャードファイナン ス部でアナリストの職を得たことでした。米国では80年代半ばから証券化商品が盛んになり、モーゲージ債やCLO、CBOといった新たな仕組債が格付けさ れるのを目の当たりにしてきました。その後、中堅投資銀行のニューヨーク本社に転職し、日本の機関投資家向けに仕組債のリサーチや営業を担当しました。そ して、95年にヘッジファンドに出会い、多くのヘッジファンド運用者を通してファミリー・オフィスや財団、年金基金などホンモノの投資家と知り合いまし た。彼らとの出会いから、金融とは人助け、投資運用とは次世代へ希望をつなぐことだと深く学びました。

 

ウォール街イコー ル強欲という報道がありますが、実際にはイノベーションに資金を回すベンチャー・キャピタルや、成長性のある中小企業に資金繰りを促すプライベート・エク イティ、革新的な運用手法を開発するヘッジファンドなど、リスクマネーを循環させ、経済成長を支える資本市場こそがウォール街なのです。リーマンショック の反省から、行き過ぎた「アニマルスピリット」が非難されましたが、ウォール街の本質は「フリーダム・オブ・キャピタル(自由な資本)」にあります。そし て、それを支えてきたのが目利きの投資家たちです。

 

長期の運用収益を求める投資家は、ロックフェラー財団のようなファミ リー・オフィスや大学基金、年金基金から医者や弁護など個人事業主に至るまで実に幅が広く、また、こうした投資家へのサービスも専門的で多岐にわたりま す。他方、日本の金融業界では、証券や銀行といった金融商品を組成し売る側(セルサイド)が圧倒的な情報と影響力を持ち、投資家(バイサイド)が自身の利 益のためにイニシャティブをとる事が困難です。

 

投資家が運用に対して当然の権利を主張する米国で、長期に資産を保全し、 増やし続けて来た人たちのモットーは「勝たなくてもいいから負けない、負けなければ生き残れる」です。彼らはヘッジファンドや資源開発等などリスクを伴う 私募金融の領域で、機関投資家が入ってくるずっと前から投資をしてきました。私募金融の建付けは、運用者(GP)と投資家(LP)と利益を共有する、いわ ば同じ船に乗る「運命共同体」型の投資です。運用者が船長で投資家が乗組員のようなものです。船は船長の指導のもと、短期的な大きな利益よりも、目標リ ターンに向かって安全な航海を優先します。私募金融の領域で開発されたオルタナティブ投資は、公募の相場動向とは一般に相関性が低く、相場が荒れるときで も「絶対値の収益」を確保します。こうして、船は難破したり座礁したりする事なく航海を続け、乗組員もまた利益を得てきました。

 

長期運用においては、シンガポール政府系ファンドGICが20年以上にわたり年率平均8%の利回りで運用しています。このような運用が一世代30年つづけ ば国富は10倍になります。さらに三代、孫の代まで続けば千倍になります。安定した収益は複利で大きな収益をもたらします。これが、ロックフェラーをはじ め多くの資産家が1世紀以上にわたり代々資産を守り、増やし続けて来た秘訣です。

 

投資運用事業で長く繁栄するためには、絶え間ない努力、集中力、外的環境の変化に対するきめの細かい対応等が必要です。そして、資産保全のためにはオルタナティブ運用ポートフォリオが不可欠であり、資産と運用における分散、全体の流動性に関わる管理が必要です。

 

さらに、マーケット・サイクルを読み、プロアクティブなポートフォリオのアロケーションが必要です。マーケット・サイクルとは、従来の景気循環(ビジネ ス・サイクル)と異なり、バブルの生成と破綻を繰り返す金融市場のサイクルです。マーケット・サイクルのタイミングを誤ると、バブル破綻の売浴びせで、 せっかく作り上げた資産を失ってしまいます。資産保全は、いくどもマーケット・サイクルを乗り越えていくことで達成されます。

 

ポートフォリオ構築においては、組入れる資産と戦略において、トラックレコードがしっかりした絶対値収益を創出する最良の運用者(マネジャー)を選定しま す。運用収益の源泉はあくまでも運用者の質に関わっています。また、オルタナティブ投資の中には、比較的流動性の高いヘッジファンドやコモディティから流 動性の低いプライベート・エクイティ、不動産、そして長期にわたり流動性を犠牲にするベンチャーやインフラ投資があります。こうしたオルタナティブを複数 組み合わせたマルチ・マネジャーのポートフォリオ運用が理想的ですが、目標リターンとリスクに整合したポートフォリオ構築に加え、流動性においてもリス ク・バジェットの点で考慮が必要です。

 

長期投資と安定運用を求める投資家の皆さん、オルタナティブ投資ポートフォリオの船出はいかがでしょうか。

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