続く通貨安戦争、世界経済の減速、エボラ出血熱の拡大、イスラム国家の勢力拡大等

公開日: : 大井リポート | 

通貨安戦争は続く

G20の中央銀行総裁や財務長官が集う機会の多い10月、11月。世界経済の減速、エボラ出血熱の拡大、イスラム国家の勢力拡大等が共通の問題として話し合われている。

金融市場では米国景気の強さや利上げのタイミングを見極めようとしている。その影響を受けて株式相場の動きが激しさを増している。利上げなのかゼロ金利持続なのか、グローバル投資資金は正反対の方向性にどうヘッジするか、日々のトレーディングの動きがそのまま金融市場の変動幅を拡大している。市場リスクの高まりから、各国の中央銀行や規制当局は金融危機への備えを怠らない。

FT紙によると、英米はリーマンショックに際しては両国の中央銀行及び規制当局・財務省の足並みが揃わなかったことを反省し、次の危機と「金融戦争」には協力して戦うことを確認しているという。

金融戦争とは「通貨安競争」である。1929年の世界大恐慌に際して、各国が輸出拡大によって自国経済を立て直そうと競って自国通貨を切り下げた結果、世界貿易が縮小し、かえって危機を深めた。この反省に立って通貨安競争を自制しようと米財務長官自らが呼びかけている。(相当な二枚舌ではないか。)

20世紀は米国の世紀であり、貿易分野における米国の仮想敵国として、1980年代は日本がターゲットとなった。プラザ合意以後、円高・株高に沸いた日本は、90年代にバブル崩壊から立ち直れず、「失われた20年」が続いている。一方、米ソ冷戦に勝利した米国は、IT革命を経て一国覇権主義へ進み、クリントン政権下、中国の開放政策と経済成長を支え、その後は人民元切り上げを要求している。また、ベルリンの壁崩壊後に東西ドイツ統一とユーロ統一が動き出し、通貨統一により、ユーロ域内でのマルク安がドイツ経済の一人勝ちを支えた。2006年から12年までは新興国市場にグローバル投資資金が流入し、経済成長は一巡した。09年から11年のユーロ危機を経て、特に今年8月以降、ドイツ経済の鈍化から周辺東欧諸国の経済成長の落ち込みも深刻化している。

目下、米国は中国とドイツへの警戒感を強めている。米国の利上げが見込まれることから、投資資金は米国へ流入している。しかしながら、米国に成長を支える基幹産業があるだろうか。自動車産業以外に広範な雇用を創出できる産業は見当たらない。米国経済の脆弱性から、金利上昇は当分ないという見方もある。その場合、ヘッジポジションの反転があり、相場の動きが荒くなるだろう。

 

通貨より怖いエボラウィルス

さらに、通貨以上の恐怖要因はエボラウィルスである。12日に米国テキサス州の病院で感染患者から医療従事者が米国国内で初めて二次感染した。世界銀行は、エボラウィルスがリベリア、ギニア、シエラレオネを超え隣国に拡大する場合、今後18ヶ月で326億ドルもの経済損失になると予想している。

現に、感染拡大の恐怖から、ユナイテッドやアメリカン航空の株価が下げている。2003年に香港やアジアでSARSが拡がったときに、アジアの航空会社は総じて60億ドルもの損失があったと報じられている。検疫や医療体制の整備には政府の支出が増えるだろうし、加えて、ヒト、モノの移動が制限されれば、貿易通商の縮小も懸念される。総じて世界経済への打撃を防ぐためにも、疫病の蔓延を最小限に食い止めるよう万全な対策が必要である。

 

「イスラム国家」は本当に国家なのか?

10月10日、小松啓一郎先生がスコットランドの独立運動、イスラム国(ISIS)の勢力拡大、ウクライナ情勢にわたり、詳細な現状報告を東京で講演された。多くの優れた分析のなかで、私はイスラム国がもはやテロ集団の軍隊ではなく「カリフ制による世俗的国家」であるという小松先生のコメントに驚愕した。

かつてビン・ラディンが率いたアルカイダは「ベース、基地」を意味し、確かに移動式テロリストキャンプのようだった。そのアルカイダとイスラム国が合併する動きもあるという。イラクでは点と線だったイスラム国が面になって領土を囲い込み、その国境線の内側に捕われた人々(=国民)を統治すれば、それなりに国家の体裁となるのだろうか。その場合、彼らの経済的基盤は何か。最新の兵器・軍備を持つ最もリッチなテロ集団は周辺地域に紛争をまき散らすことで国家としての存在意義を高めて行けば、麻薬や人身売買などの闇の経済手段しかない。徹頭徹尾の恐怖国家を国際社会は許すのだろうか。

米国と協調してイスラム国家に空爆を繰り返すサウジアラビア、カタール、バハーレンなど中東諸国連合は、二枚舌外交を展開している。オバマ大統領は「この戦争は今後30年は続く」と他人事のような発言をし、コミットメントが全く感じられない。また、サウジアラビア等はテロリスト集団への資金供与と空爆を同期させ、その欺瞞性とあいまって原油価格の下落が長期に続けば、王制支配の正当性すら揺るぎかねない。百鬼夜行のテロ集団が中東から支配拡大を目指し、ユーラシア大陸を駆け巡る混沌とした状況は、エボラウィルスのように撲滅されるまでその恐怖を世界に拡散するだろう。特にチェチェンを恐れるロシアとウィグルを恐れる中国は、西からのイスラムの脅威に警戒している。21世紀になって、世界は近世以前の暴力と略奪の歴史を逆戻るのだろうか。

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