グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

「コロナ恐怖」世界で株安

 コロナウィルス患者がイタリア、ギリシャ、イラン、アルジェリア等でも出て、世界的な感染拡大「アウトブレイク」状態となっている。今後、国境の一部封鎖などの措置が取られ、人やモノの移動が制限されると経済にも影響が出てくる。株式市場は恐怖感から景気後退を先取りして、世界大幅安となっている。

 世界的な感染拡大はマーケット心理を恐怖に陥れ、S&P500 VIXは26まで上昇し、「恐怖と強欲 指数 (Fear & Greed Index)」も、1ヶ月前の楽観的な「強欲」から「恐怖」へと針が振れた。

 下のグラフ(2/26付)は年初来の市場動向を示している。金、債券が7.5%上昇、株価は5%下落している。感染拡大が数ヶ月も続くと、世界経済の冷え込みは必須である。

 金融市場については、ブルームバーグ記事(2/26)によれば、株式1,500億ドル分がシステマティック・トレーディングで売り浴びせられた。コモディティ売り(セルオフ)も同様に、まもなく「ある一定レベル」に達するまで続くとみられる。そして、株価が一定レベル以上に下落すると、年金基金などが資産アロケーションを見直し、株式を買い戻す。そのために一時的に株価が1-2%は、リバウンスすると見られている。

 私は、日本株についても、日銀が3月にある程度は買い支えると見ているが、果たしてこれ以上、どうやってアベノミクスを支えられるのだろうか。今後はオリンピック中止の可能性も含め、日本経済には大変な逆風となる。日銀はマイナス金利をさらに深化させ、政府は財政支出を増やすだろう。

 それよりも何よりも、政府は国民の生命と財産を守る最低限の危機管理ができるのか。今の安倍内閣を見ていると、閣僚は官僚の用意した原稿を棒読みし、何かあれば官僚に「早くやれ!」と言うだけで策がない。決断は政治家の役割なのに、官僚のせいにするしか能がないようだ(と某省官僚が言っている)。

WHOが「世界的疫病の流行」を認めない理由

 ところで、このように世界で8万人が感染し、2,700人が死亡し、拡大が続いているにもかかわらず、WHO(世界保健機関)はなぜ口を濁して「世界的疫病の流行」を認めないのだろうか。私も含め、多くの人々が「変だ」と感じている。

 Zero Hedge記事(2/25) によると、WHOが疫病を認めるか否かで多額のカネが動く。2017年に世界銀行は「CATボンド(カタストロフ債)」4億2,500万ドルを発行した。緊急の疫病流行に対応する資金調達=Pandemic Emergency Financing Facility (PEF)を目的とした保険枠で、日本とドイツからの拠出金で保険料をまかない、資金は債券を発行し、投資家から調達する。(詳細は世銀プレスリリース 5/22/2018)

https://www.worldbank.org/ja/news/press-release/2018/05/22/world-bank-groups-pandemic-emergency-financing-facility-pef-makes-first-12-million-commitment-to-bridge-financing-gap-for-ebola-response-in-drc

 発行済PEF債には二つトランチがあり、7月に満期が来る。7月までに何も大惨事(カタストロフィ)が起こらなければ債券投資家は多くの収益を得られる。しかし、コロナウィルスをWHOが「Pandemic 疫病」と認めた瞬間、債券デフォルトとなり、投資家は損失を被る。

 ちなみに、クラスAトランチ(発行高2億2,500万ドル、金利6.9%)は目論見書によると、PEFを「特定の国で死者2,500人以上に達し・・・」と定義している。クラスBトランチ(発行高9,500万ドル、金利11.5%)は、PEFをより緩やかなレベル(低い死者数等)でPEFを定義している。

 投資家からの圧力のせいなのか、コロナウィルスをWHOは7月の満期まではPEF認定しないだろう。「PEF、地獄の沙汰も金次第」(It’s all about money)と記事は記している。

 CATボンドといえば、思い出すのが、リーマンショック前のCDS(クレジットデフォルトスワップ)オプションの空売りである。この時も、誰もリーマン・ブラザーズがデフォルトするとは考えても見なかった。同じように、PEFについても誰もコロナウィルスがアウトブレイクするとは考えてなかった。WHOの措置は、もしかしたらデリバティブ市場を金融破綻から守っていることになるのかもしれない。

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