グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

ウィルス世界大戦に日本は耐えられるのか?

 コロナウィルス感染拡大の影響について、私は、1月末には「サプライチェーン分断」による工場閉鎖など生産体制の落ち込みを懸念していた。それから2ヶ月経って、米国各地では「非常事態事態宣言」が出され、州の軍隊が出動。フランスではマクロン大統領が「ウィルスとの戦争状態にある」とテレビ演説で訴え、外出もままならない。欧米では、学校、商店、レストラン、劇場などが閉鎖され、個人消費が一気に落ち込んでいる。

 マンハッタンに住む知人と電話で話したら、基本的に皆が自宅で働いているので、オフィスには数人しかいない。ブロードウェイや美術館など全てが閉鎖され、街には人影もまばらという。「lockdownロックダウン(厳重な監禁)」状態である。当然、これから失業率が急増し、個人消費が激しく落ち込むだろう。

 ロックダウンは、感染拡大を止めるために、ドラスチックではあるが必要な処方箋である。下の棒グラフは直近のOxford Economicsによる今年のGDP予想速報(赤い棒グラフ)を示している。ロックダウンの影響で第2四半期(4-6月)のGDPが年率マイナス11.5%という厳しい落ち込みを予想している。しかし、第4四半期にかけては大きなリバウンドが見込まれる。

US:Real GDP growth

米国政府とFRBはそれぞれドラスチックな対策を打ち出している。

 FRBはすでに2度にわたる大幅な利下げを実施し、金利はゼロとなった。また、政府は2兆ドル(220兆円)という巨額の財政出動を準備している。

 パウエルFRB議長が「金融緩和でウィルスを退治できるわけではない」と発言したように、実体経済にとっては感染拡大がいつピークに達するかが問題である。おそらく、ピークに達する手前で株価も底を打つと、マーケット関係者は見ている。

 米国がこうしたドラスチックな動きに出る背景には、トランプ大統領が1月初旬にウィルス感染拡大の情報を知りながら、それを軽視したという反省があるのかもしれない。何れにせよ、米国は国家安全保障に関わる事態に対して、やるべきことはやる。

 問題は日本政府の後手後手、小出しな対応 (Too little, Too late)である。日本政府(安倍官邸)には「ウィルスとの戦争状態にある」という危機感がないのか、政府がオリンピック開催できないことで支払う金銭的な補償や責任を負いたくないのか。自治体やそれぞれの民間企業の自粛、自主規制に任せて、責任逃れをしている。国ほど情報がない個人のレベルではいくら自粛しても各自の程度の問題もあり、感染防止どころか逆に「オーバーシュート」を起こすリスクもある。つまり、政府がグズグズしている間に、すでに見えない敵(ウィルス)の勢力が拡大し、突然オーバーシュートが出現するリスクが日に日に高まっている。

 今後、日本で「非常事態」法案が通過し、ロックダウンが実施されても、感染拡大がピークを迎える時期がいつ頃になるのかは、不透明である。先行きの見通しが立たないということはリバウンドの時期が遅れることを意味する。マーケットがそうした不安感を抱えながら、日銀のETF購入や政府の小出しの経済対策にいつまで耐えられるだろうか。

 日銀がETF購入で株式市場を支えようとしても、政府の政策の遅れで株価は下落し、日銀はすでに2-3兆円の損失がある。このつけはやがて国民が支払うことになる。

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