中国テクノロジー封じ込め、米中はシャム双生児か?
1981年に、結合(シャム)双生児、「ベトちゃん、ドクちゃん」兄弟が誕生した。ベトナム戦争で米軍が散布した枯葉剤の影響で奇形児が生まれ、話題となった。この赤ちゃんの分離手術には日本の医師が立ち会った。手術の結果、二人は生き延び、ベトちゃんは26歳で亡くなったが、ドクちゃんは二児の父となり、今も健在である。
さて8月7日に、トランプ大統領はティックトックとウィーチャットを米国内で制限する大統領令を出した。中国封じ込めを強化する米国。しかし、両大国はまるでシャム双生児のようだ。胴体はグローバル市場で結合されているが、頭は二つあり、米国は民主主義、中国は共産主義と、異なるイデオロギーを掲げている。これを切り離すことはできるのか?
ティックトックとウィーチャットの一件で、「米中テクノロジー冷戦」が激化している。米国は「中国共産党に米国人や米国企業の情報が流れている」と、安全保障上の中国の脅威を強調している。私のこのコラムでなんども指摘してきたが、オバマ大統領の頃から中国の脅威を放置してきたツケが臨界点に達したのだ。
中国は、米国のIT革命の成果を吸収し、ナスダック市場で巨額の資本にアクセスしてきた。技術革新には大量のリスクマネーが必要で、米国は中国へ自国の市場へのアクセスと投資の見返りに大きなリターンを得てきたのである。しかし、中国は米国を凌駕するほど成長し、2019年から上海証券取引所で「科創板(STAR)」市場の取引を開始した。中国版ナスダックのSTAR市場には、既に130社が上場している。
米中は強力なライバル同士になり、お互いを切り離そうとしている。このまま米中テクノロジー冷戦が続くと、米中の情報通信技術(ICT)が分断されて壁(ウォール)が作られ、相互に多大な損失が生じる。ドイツ銀行はこの調査をまとめ、両国の分断により、今後5年間で3.5兆ドル(370兆円)が失われると試算している。
その損失分の中身について見ると、まず、米国は分断によって中国国内の需要を失う。そして、中国のサプライチェーンをシフトしなければならず、そのコストを払わなければならない。また、中国にとっても、分断で一帯一路の周辺国への影響力を弱めるかもしれない。コロナショックで周辺国の経済は打撃を受けている。中国による「債務のわな」や「マスク外交」に反旗を翻し、米国に追随する国が出てくるのではないだろうか。
そして、米中のテクノロジーの分断に挟まれた日本にとっては、これからどうやって生き残れるのかという最大の課題がある。倉澤治雄氏は『中国、科学技術覇権への野望 宇宙・原発・ファーウェイ』(中公新書ラクレ)で以下のように端的に述べている。
今後世界は米中二つの陣営に分断され、サプライチェーンの再編や人材、研究成果、知的財産の囲い込みが始まると予想される。通信ネットワークには制限がかかり、世界初の統一規格となった5Gは威力を発揮することなく、各陣営でのローカルな利用に止まるかもしれない。・・・ 安全保障では米国と同盟関係にあり、中国を最大の貿易相手国とする日本は厳しい選択を迫られる時代になるだろう。
『中国、科学技術覇権への野望 宇宙・原発・ファーウェイ』(中公新書ラクレ)p.221
日本の役割について、私は、「ベトちゃん、ドクちゃん」兄弟の分離手術に立ち会った日本の医師のように、両国の分断に立ち会い、生き残るべき方を助けるのが役目だと考えている。果たして、今の内閣に日本国を助けられるだけの冷徹さ、明晰さ、先見性と覚悟を備えたリーダーがいるのか。
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