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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

ソフトバンク、次なるビッグショートか

 先週の木・金曜日にナスダック市場はこれまでの最高値更新から一転し、大きく下げた。今週に入り、米国株式市場におけるソフトバンク(SB)の異常なオプション取引が注目を浴びている。

 CNBCによると、SB傘下の投資会社は、500億ドルものハイテク株(主にFAAMG)を買い、同時に、40億ドルものコールオプションを、株価上昇を見込んで強気の権利行使価格「OTM: out of the money」で買った。大量のOTMオプション取引を行うのは誰か?オプショントレーダーたちはその異常な動きに注目した。SBがこの取引を行ったと知ると、SBを「ナスダックのクジラ」と称した。

 SBの取引は、まさに強気の「自作自演」である。例えば、SB投資会社はセールスフォース株を買い、かつ同株のコールオプションを購入。セールスフォースが予想を上回る収益を発表すると、同株価は通常の上昇率6%をはるかに超え、26%も上昇した。

 こうなると、コールオプションの売り手は、買い手の権利行使に応じて、時価よりも低い行使価格で売らなければならない。ここで、買い手のSBはさらに儲けることができる。

 セールスフォースの他に、SBは、マイクロソフト、フェイスブック、アドビ、グーグルなどの銘柄にも同様のトレードを仕掛けた。個人投資家はハイテク株価の最高値更新に乗じ、株価はさらに上昇した。そして、メディアの注目が集中すると、SBはどうやら先週の木・金曜で「クジラ・ポジション」のほとんどをクローズしたようだ。

 こうしたクジラによる大量の売りがナスダック市場の下げを誘引したと、メディアが報じた。一方、オプション専門家は、コールオプション取引の歪みが、ボラティリティを押し上げたと評している。

 さて、SB投資会社の株主は、67%がソフトバンクグループ、33%が孫正義となっている。同社では、元ドイツ銀行のプロップデスク(自己勘定トレーディングデスク)で稼いだ名だたるトレーダーたちが活躍している。SB投資会社はまるで手荒いギャンブル企業のようだ。そして、その成功報酬は株主(投資家)とトレーダーで山分けしているはずで、孫氏個人も莫大な利益を得ていると推測される。

 他方、SB株価は先週木曜から15%近く下げている。孫氏の儲けの裏で、SB株の投資家が損をしている。話題性を追求して株価をつり上げ、株をレバレッジに銀行から借り入れ、債券発行で借金を重ね、はたまた、ヴィジョンファンドを立ち上げ、千三つのベンチャー投資ではWeWorkなど価値のない「ユニコーン」に投資し・・・孫氏の錬金術はいつまで続くか?

 SBではチーフ・コンプライアンスオフィサーが9月1日付けで辞任している。結局、ないがしろにされているのは、SB株や社債を買った個人投資家である。SBそのものがショート(空売り)対象となる日が来るか?

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