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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

小室直樹先生の預言的未来に向けて

 6月5日、トランプ大統領は英国を訪問し、かつての連合軍としての絆を強めるべく、ノルマンディー作戦75年の式典にロイヤルファミリーと共に参列した。トランプ大統領の目論見としては、ブレクジット後に新たなアングロサクソン同盟をFTAの形で進めるとみられる。

 その前の6月4日は、天安門事件からちょうど30年目にあたる。私は当時マンハッタンにいて連日NYタイムズ紙の記者が天安門広場の現場近くのホテルから実況する様子を驚きをもって見ていた。まさか当局が学生デモをあのように鎮圧するとは・・・ 共産党独裁の恐怖を見せつけたから、それから半年以内にベルリンの壁が崩壊するとは全く予想できなかった。

あれから30年。中国は経済成長を遂げ、GDP第2位の大国にのし上がった。しかし、民主化は進まず、人権や自由への抑圧は強まっている。一方、東西ドイツは統一され、ドイツは東ドイツ出身のメルケル首相の指導のおかげでEUの盟主となった。さらにソ連は崩壊し、ロシアに再編された。

 日本は1989年の年末に日銀が金融引き締めを実施し、バブル終焉の鐘が鳴った。それから数年して、ロックフェラーセンターを買収したジャパンマネーも潮が引くようにニューヨークから去っていった。

 私自身はニューヨークに残ったが、90-91年にかけて天安門事件で本土に帰れなくなった中国人の学者グループと知り合うこととなった。彼らは米国の原子物理学やその他専攻の博士課程で研究していた国費留学生で、中国のエリート中のエリートだった。素晴らしく頭脳明晰だった彼らは当時進行しつつあったIT革命の波に乗ることになった。ある人はインターネット上のコンテンツ開発に乗り出し、別の人たちはネットインフラ事業に乗り出した。

 その一人がEdward Tianだった。彼は博士号を取得した後、T-1 Line事業に乗り出した。そして、1994-95年にAsiaInfoを起業し、同社は2003年に中国系企業として初めてナスダックに上場した。Edward は1999-2006年にChina Netcomを中国で立ち上げた。その辺りのことは”China Dawn”に詳しい。

 私が感心したのは、当時の中国政府が米国からEdward のようなIT成功者(いわゆる海亀族)を歓迎して受け入れ、祖国の発展のために尽くしてもらったことだ。日本では米国でどんなに進んだ知見を身につけて帰国しても組織の中では「アメリカの垢を落とせ」とばかりに冷遇されたものだ。さらにバブル崩壊後、日本の経営者はコストカットに走り、リストラの嵐が吹き荒れ、有能な若者の成長の芽を潰していった。

 1989年からの30年間で、世界は本当に変化した。次の30年ではもっと凄い変化が起こるだろう。最強の社会科学者、小室直樹が生きていたらどんな預言をするだろうか?

 私は1979-81年に東大で小室直樹先生直々のゼミに参加した。私にとって小室先生の学問は、社会変動の法則性・必然性を示し、「預言的未来像」に導いてくれる極めて実践的なものだった。

 小室氏の著書『危機の構造』(1976年)は戦後日本社会の「急性アノミー現象」(規範意識の破壊)を描き出した。その内容は、家庭崩壊を預言した『あなたも息子に殺される』(1982年)に通じる。また、国際関係では、『アメリカの逆襲』・『ソビエト帝国の崩壊』(1980年)が日米貿易戦争とソ連崩壊を物の見事に預言した。このままいくと、『大国日本の崩壊』(1983年)と『中国共産党帝国の崩壊』(1989年)といった預言もまた的中するかもしれない。

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