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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

Bio-Economic World Warの次に来るもの・・・ 目に見えない戦争は続く

 世界では目に見えない戦争が進行している。今のところ直接日本に爆弾が飛んでくるわけではないが、私たちは、24時間365日、コロナウィルスや新型ウィルスに加え、コンピューターウィルスの攻撃にさらされている。そして、2021年からは、金融市場では「金融戦争 Financial Warfare」が激しくなるだろう。

 2011年にJames Rickards(ジェームズ・リカーズ)はCurrency Wars(『通貨戦争』)を出版し、ベストセラーとなった。続いて、2014年にThe Death of Moneyを出版し、その翻訳『ドル消滅』が2015年6月に出版された。2016年3月に、私は、東京の外人記者クラブでリカーズに直接会って話す機会があった。リカーズと私はワシントンDCのジョンズホプキンズ大学高等国際関係大学院(SAIS)で学んだ(時期は異なるが)という共通点があり、話は弾んだ。

リカーズ氏がサインしてくれた『ドル消滅』

 リカーズはSAISの後、大手ヘッジファンドLTCMのリスクマネジメントに携わった。彼の活躍ぶりについては、拙著『円消滅』(2016年10月)にも詳しく記した。重要な点は、金融と安全保障、地政学が一体となった戦争状態がすでに2001年の同時多発テロからずっと引き続き、米国国防総省(ペンタゴン)はいくつものシミュレーションを実施しつつ、常に臨戦態勢にあるという点だ。

 リカーズによると、2015年にペンタゴンは南シナ海領域での第三次世界大戦を想定した金融戦争のシミュレーションを実施した(詳細はDaily Reckoning.com)。ここで重大なポイントは、資金の流れのチョークポイント=国際間の決済システムSWIFTへのアクセスだった。

 米国は2012年にイランへの経済金融制裁の一環として、イランの銀行がSWIFTにアクセスできないようにした。その効果は抜群で、イラン経済はハイパーインフレで大きな打撃を受け、社会不安が広がった。しかし、当時のオバマ大統領が2013年後半にこの制裁を緩めてしまった。

 2013年以降、習近平体制のもと、中国はイランを始め各国への影響力を強めていくことになった。そして、ペンタゴンでの金融戦争シミュレーションにおいて、仮に中国をイランと同様の制裁を科した場合、中国は独自の決済網を構築し、南シナ海の隣国で米国の同盟国である台湾やフィリピンをも取り込もうとするのではないか。こうした議論が起こったという。

 戦争の目的は、敵国への経済的損失を最大化することである。21世紀の戦争において、その手段として金融システムへの攻撃が最も効果的である。例えば、敵が日本の銀行や証券市場を攻撃し、金融機関や個人投資家のあらゆる情報と富を乗っ取ってしまったならば、日本国の国富そのものが根こそぎ奪われてしまう。具体的には、現金や証券など金融資産がロックダウン状態になり、二度と引き出せなくなる。

 リカーズは、米国の金融市場へのサイバー攻撃を想定し、ニューヨーク取引所やSECなど全ての機関でネットが通じない状況下でも、銅線ワイヤーで取引と決済ができる「プランB」を構築するように助言したという。

 ちなみに私は1990年代にウォール街のトレーディングフロアで働いたことがある。当時はブルームバーグ機器もなく、トレーディングはピンクの取引シートに書き込まれ、セールスアシスタントが鬼のように計算機を叩いていた。この「インターネット前の状況」を想定すれば地下に潜ってでも生き延びることはできるだろう。ただし処理能力が低下し、取引量は相当減るかもしれない。

 ちょうど昨年10月に、東証では丸一日取引が停止した事件があった。世界第3位の大国の金融市場がこんな状況では、世界中が日本の危機管理能力を疑うだろう。これはシステム障害では済まない。安全保障上の問題として捉え、何重もの備えを持って、日本の富を守ってもらいたいと思う。

 コロナウィルスも含め、今年は日本にとって安全保障が重大なテーマになるだろう。

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