グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

ビットコインは「デジタル・ゴールド」となるか?

 2月9日のニュースによると、テスラ社のイーロンマスクがビットコインに15億ドル(約1580億円)を投資し、また、同社のプロダクト購入についてもビットコインを受け入れる準備を進めていると報じました。ビットコイン価格はこの5日間で20%も急騰し、最高値5万ドル近くまで跳ね上がりました。

【グラフ】ビットコイン価格(円)の推移

 なぜ今、ビットコイン・バブルなのか?その背景には何があるのか?ビットコインは、デジタル通貨の「金(ゴールド)」となりうるのか?あるいは、バブルは破綻に向かうのか?

 各国では春に向けてワクチン接種が少しずつ広がりつつあります。今年後半には集団免疫が作られ、経済活動がコロナ前に回復するだろうという期待をマーケットが先取りし、株価は上昇し続けています。

 しかも、このタイミングで、バイデン政権が1.9兆ドル(約200兆円)もの経済支援策を掲げ、民主党は単独でもこの法案を通そうと強気です。支援策が実行されると、財政支出が膨れ上がります。そこに経済活動再開が重なれば、すでに市場に溢れているジャブジャブのお金が回り始めると予想されます。

 そうなると、多くの投資家は、これまでのゼロ金利/デフレ状態から脱却し、インフレ期待が高まると予想します。しかし実体はというと、実質金利はそれほど変化していません。そのため1月には、インフレというよりも物価が穏やかに上昇するリフレーションを想定した「リフレトレード」に、マーケットは動きました。

(詳細は動画説明をご覧ください:リフレ取引[リフレーショントレード]とは?意味と影響・その時に買われる銘柄・セクターを解説 大井幸子のグローバルストリームニュースCh

 2月に入り、マーケットはリフレを超えて「インフレリスク」を意識しています。さらに先回りしてハイパーインフレにも備えようと、ドルの信任をヘッジする先として、ビットコインに投資マネーが集中しています。ちょうどこのタイミングで、イーロンマスクの発言が投機家のビットコイン熱狂に油を注いだようです。

 それでは、このままビットコイン価格は上昇し続けるのか?答えはNoです。米国をはじめ各国政府が「E通貨 Ecurrency」を発行すれば、ビットコインに限らず、プライベートな取引所で売買される暗号通貨は全て表からは消える運命にあると予想します。

 仮に暗号通貨が地下に潜ると、プライベートなデジタル賭場として、麻薬や人身売買など諸悪の取引に使われるブラックマーケットを形成するとみられ、大変危険な存在になります。

 では、ビットコインはなぜ今「デジタルゴールド」になれないのか?暗号通貨はなぜ一国の通貨となれないのか?通常の資産とどこが根本的に異なるのか?

 まず、ビットコインが「デジタルゴールド」になれない理由について、金は金利を生まないが、工業用や宝飾でも使われますし、実物としての価値があります。暗号通貨は実体的な担保がありません。

 また、株や債券、不動産といった資産は配当や収入を生みますが、暗号通貨そのものはキャピタルゲインだけです。しかも、価格変動が激しく(ボラティリティーが極端に高く)、短期的投機の対象とはなりますが、あまりにも実体がなく、不安定です。

 各政府がビットコインではダメでE通貨を発行する理由は、一言で言えば税金を徴収するためです。国民から税金を吸い上げるために、国家権力は流通する通貨の価値を担保できるだけの信用力を発揮します。それがなければ、あらゆる取引の決済ができなくなり、経済活動が成り立たなくなると思います。

 一方、「信用力」とは心理的な要素を含んでいます。仮にバイデン政権の正当性が疑われる、経済政策が失敗し、その信任が崩れるようであれば、信用力が壊れていくという最悪のケースも考えられると思います。

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