ロビンフッドは庶民の味方か?
オリンピックは無事閉会しました。一方、世界では同時多発的に、デルタ変異株の暗雲が立ち込めています。各国は感染拡大を防ぎながら、どのように経済を再開していくか、政府は難しい判断を迫られています。
そんな中、あのロビンフッド(Robinhood Markets Inc)が7月29日にナスダック市場に新規上場(IPO)を果たし、話題となりました。初日、売り出し価格は38ドルから-8.4%も下落しましたが、8月4日には日中70.39ドルの高値を付け、6日の終値は55.36ドルです。
ロビンフッドは、若者に人気の株式投資アプリを運営する取引プラットフォーム企業で、2013年に設立されました。人気の秘訣は、スマホで誰でもアクセスでき、取引手数料ゼロ、オプションなどプロ向けの取引を投資初心者にも提供するサービスにあるかと思います。二人の共同創業者、テネフ氏(34歳)とバット氏(36歳)は、2011年の「ウォール街を占拠せよ」運動に触発され、「反ウォール街」=「投資の民主化」を目指したということです。そして、彼らはこのIPOで2千億円以上の資産家に成り上がりました。
一方、上場後のロビンフッドの値動きは荒く、これからの不確定な相場動向を映し出しているかのようです。そもそも、ロビンフッドがここまでブレークスルーできたのは、昨年のコロナショックがきっかけでした。[当ニュースレター 賭博場と化した株式市場 予想されるロビンフットの大量死(2020年6月19日付)でもお伝えしました。]
下のグラフは、ロビンフッドの月毎のユーザー数の伸びを示しています。2020年ロックダウンを追い風にユーザー数が2倍に急増し、さらに好調な株式相場を背景に、2021年に入ってからも増加し続けていることがわかります。
参考記事:Robinhood Is Warning You About Certain Risks Before You Invest in Its IPO
そして、新規ユーザーの多くが投資初心者の若年層です。彼らは、レディットやウォールストリートベット(WSB)といった個人投資家サイトSNSのユーザーでもあります。こうしたSNSは「反ウォール街」色が強く、ヘッジファンドが空売りを仕掛けた「ショート銘柄」を買い進むよう扇動しました。「権力の手先のヘッジファンドをやっつけろ」と言わんばかりに。
実際、多くの個人投資家が、狙い撃ちされたゲームストップやAMCの買いに入りました。こうした個別銘柄は「ショートスクイーズ」で短期間に株価が上昇し、「ミーム株(流行り株)」と呼ばれています。ロビンフッダーらの群集行動のせいで、大手ヘッジファンド、メルヴィン社は大損し、破綻寸前に追い込まれました。
目下、世界ではデルタ変異株が猛威を振るい、マーケットには何か先行き不安な、不透明感が漂い始めています。仮に、感染拡大のために再びロックダウンになるか、あるいはソフトな外出制限になるか、何らかの巣篭もりを強制される場合、ロビンフッドはさらにユーザー数を増やし、ミーム株の取引高が増えることで、収益を上げることになるでしょうか。
実は、ロビンフッドは個人投資家の取引注文データをモルガン・スタンレーやシタデルなど大手機関投資家に売り、対価を得ています。このやり方はPFOF(Payment for Oder Flow)と呼ばれ、今年第1四半期のPFOFによる収益は3億3100万ドルです。それでも、同時期の決算は14億ドルのマイナスです。上場したとはいえ、多くのIT企業のように、ロビンフッドには実質的な収益がないのが現状で、しかも、PFOFに対してSEC(証券取引委員会)は規制強化に動いています。
そもそもロビン・フッドとは、中世の伝説上の人物で、民衆を搾取する悪代官から弱い者を守る英雄としておとぎ話「ロビン・フッドの冒険」で描かれています。アニメや映画でその名前を知っている人は、ロビンフッドと聞けば、「弱きを助け、強きを挫く」といった良いイメージを持つでしょう。しかし、今後、ロビンフッドは、本当に個人投資家の味方であり続けるのか?
仮に、株価が大きく下落する局面があれば、ロビンフッドの個人投資家も、若い二人の共同経営者もその資産を大きく減らすでしょう。そして、その時が「ロビン・フッドの冒険」の終わりとなるかもしれません。
コメントは締め切りました。