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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

インフレ、リセッション、そして、急激な円安

 6月10日(金)に米国では重要な経済指標が発表されました。インフレ率を示す消費者物価指数(CPI)です。

 下のグラフでは、総合インフレ率(CPI Headline)、総合から価格変動の大きい食品とエネルギー価格を除いたコア・インフレ率(CPI Core)、住宅(賃貸の場合は家賃、持家の場合は毎月のローン返済額)と医療費を除いたインフレ率(CPI Ex-Housing & Health Care)を示しています。3つのインフレ率から2021年以降急激な物価高になったことが見て取れます。さらに、光熱費(電気代とガス代)、ガソリン代、食品価格といった生活に密着した品目の値上がりは10%以上と、1980年以来の物価高です。生活必需品の値上がりは低所得世帯の家計に重い負担となっています。

【グラフ 3つのインフレ率】

 グラフではまた、インフレ率が高まるピーク時に株価の大幅下落の傾向が見て取れます。ドットコム危機(2000年のITバブル崩壊)、2008年リーマンショック、2012年デットシーリング(債務上限問題)をめぐる危機、2018年金融引き締めによる下げ、2020年コロナショックが記されています。

 5月のCPIは前年比+8.3%、前月比 +1.0%と、予想の+8.3%、+0.6%をそれぞれ上回りました。このことからFRBが来週の政策決定会議(FOMC)でかなりタカ派に動くのではないか。予定通のり0.5%の利上げではなく、0.75%の利上げも視野に入るといった超タカ派の意見すら聞こえてきます。

 インフレはまだピークに達していない、これからも高まりそうだとなると、7月のFOMCで0.5%の利上げの後、9月以降は利上げを一旦停止するかもしれないというハト派スタンスは消えざるを得ない。おそらく、9月にも0.5%の利上げが続き、11月に 0.25%、12月に 0.25%の利上げと、年内いっぱい利上げと量的引き締めを行う既定のタカ派スタンスか、さらに超タカ派に振れる可能性すら出てきます。

 加えて、10日(金)に発表されたミシガン大学消費者信頼感指数が50.2 と、予想の58.0を大きく下回りました。グラフからも、2020年3月コロナショック以降冷え込んできた消費者マインドがさらに急速に冷え込んでいる実態が確認されました。当然、リセッション(景気後退)への懸念が高まるどころか、「すでにリセッションなのに何故急激な利上げが必要なのか」という声すらあります。

【グラフ ミシガン大学消費者信頼感指数の推移】

 さらに、金融市場では、FRBによる量的引き締めで、リスクマネーが徐々に縮小していくことで信用逼迫への懸念が高まっています。そうなると、株式相場はフラッシュクラッシュ(瞬間的で急激な下落)や暴落への警戒が高まります。現にS&P500指数は、6月8日(水) に -1.08%、9日(木) -2.8%、10(金)-2.91%と連続して大きく下げました。

 さらに、2008年に株価のクラッシュが信用不安に波及し、リーマンブラザーズの破綻がシステミックリスクを引き起こした時のように、今回も同様のリスクの高まりが市場関係者の間で共有されていると思います。もちろん、金融業界もリーマンショックの教訓から、流動性を枯渇させないように様々な予防策を備えてきました。各国の中央銀行の協力体制もその一環です。FRBをはじめとする欧米の中央銀行が金融引き締めに舵を切る中、日銀は超量的緩和を続けています。このため、欧米と日本の金利差は拡大し、円安に振れています。

 このところの急激な円安は、そうした国際金融市場で懸念されるシステミックリスクに対する予防線だと私は考えています。日本は膨れ上がる財政赤字に対して金利上昇を抑制する必要があり、日銀が緩和を続けざるを得ない事情があります。

 ただし、ハードランディングに向かうバイデン政権の政策に日本がどこまで協調できるのか?むしろ日本の方が先にハードランディングを強いられるのではないか?

 ウクライナ情勢、中国、ロシアといった地政学リスクの高まりとシンクロナイズして注目する必要があります。

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