シン資本主義で日本はソ連化する ソ連崩壊から学ぶこと
欧米では政策金利を上げ、金融引き締めを実施中です。主要国で金融緩和を続けているのは、日本と中国です。日銀がお金をいくら刷って回しても、政府がいくら補助金をばら撒いて支出を増やしても日本はデフレ不況と言われてきました。「失われた30年(以上)」はいつまで続くのか?長期にわたるゼロ金利やモラトリアム法案で生き延びたゾンビ企業は、次に来る景気後退で息の根が止まるかもしれない・・・グローバル化から自国第一主義へ、デフレからインフレへと世界の潮流が大きく変わってきているのです。
岸田総理の掲げる「シン資本主義」とは何か?国民がコロナ禍で困れば10万円、インフレで苦しいと5万円といった支給金が配られる。その一方で、労働基準法とコンプラ、官僚主導で膨れ上がる「大きな政府」が公的債務を増やし続け、国民の将来の税負担はどんどん重くなる、そしてその責任は誰も取らない。これではモラルハザードが蔓延し、ソ連崩壊と同じことになってしまう・・・私は恐怖を感じます。
ソ連は1990年に崩壊しました。その10年前の1980年に社会学者の小室直樹氏は『ソビエト帝国の崩壊』を著し、ソ連崩壊を予言しました。その中で小室氏は、社会主義的経済体制では労働者のエートス(勤労意欲)が失われ、「上からの命令にヘコヘコ従うだけ、独創性や指導性が評価されることはなく、その結果、ソ連の労働者は奴隷根性が身にしみきって働かなくなった」と記しています。どこかの国の大企業病と似ていませんか?
ソ連はスターリン時代の1950年代後半に米国に次いで世界第2位の経済大国にのし上がり、1960年代に黄金期を迎えました。労働者には週休二日制、住宅、教育、医療、年金などが保証されました。まさに労働者の理想郷が作られたのです。しかし、1988年のペレストロイカの頃には失業者が溢れ、国民経済が立ち行かなくなり、体制は内部から崩壊していったのです。
参考:「毛沢東主義へ回帰か?共産主義は国を滅ぼす!」2021/09/28号
資本主義の大敵は「大き過ぎる政府」です。政府が何でもかんでも口を出し、ばら撒き、他方では、既得権益の岩盤規制に縛られ、民間企業と国民からはひたすら税金を吸い上げ続けます。こうなると、経営者はやる気をなくし、ひたすらリスクを避け、事なかれ主義になります。また、日銀がいくら金融政策を緩和してもお金が生産性向上やイノベーションに回らない。国民はひたすら生活防衛、企業は現状維持で、GDPも増えていかないという悪循環になります。
日銀がゼロ金利や量的緩和を続ければ、投資マネーは株や不動産などに向かい、投機筋が跋扈します。金融市場ではバブルが生成され、資産価値が上昇し、資産家が得をします。一方で、資産を持てる者と持たざる者の貧富の格差が拡大していきます。が、結局はしばらくしてバブルが破綻すると、持てる者も持たざる者も、経済全体が疲弊してしまいます。こうしてバブルの生成と破綻が幾度か繰り返されると、株式市場はカジノと化し、実体経済と乖離し、国民経済と金融市場との健全な融合が損なわれていきます。
参考:「資本主義が失われても、インフレなき成長は可能か?」2022/07/30号
大き過ぎる政府と介入し過ぎる中央銀行がやたら政策をいじくり回した結果、リスクマネーが生産性向上やイノベーションに回り成長を持続させるという資本主義の自律的で快活な最も重要な機能が失われてしまいます。さらに深刻なことに、人々が快活で積極的な心を失っていきます。「どうせダメだろう・・・」と気を落とし、「長い物には巻かれろ」と、努力を諦める。希望を失うと、本当にいつの間にか奈落の底にまっしぐらです。
そうした日本の将来を憂い、行動した政治家がいました。衆議院議員だった石井紘基氏です。石井氏はソ連に留学した経験から、ソ連経済の崩壊を間近で感じ取り、同じことが日本で繰り返されると危機感を持ちました。そして2001年に、『日本が自滅する日:“官制経済”が国民のお金を食い尽くす!』を著しました。この著書では、日本の公的資金(特別会計も含む)がどこにいくらあり、どのように既得権益に流れていっているかなどが具体的に解明されています。しかし、石井氏は2002年に暗殺されました。
そして、2022年の今、石井氏が説明された日本の公的資金が国庫にあるのかというと、私はこの20年で使い果たしているのではないかと思うのです。特に、東京オリンピックやコロナ禍での政府支出は凄まじいです。加えて、戦後の成長を支えた製造業を中心とした輸出モデルや90年代以降のサービス業を中心とした内需主導モデルも今や力を失い、日本の稼ぐ力は国際競争の中で低下しています。長年の既得権益も利益を生み出す力が萎んできています。こうした旧勢力は「失われた30年」を耐えて枯れ木になった樹木にしがみつくツル草のようなものです。枯れ木はあと10-20年後には朽ち果てるか、あるいは、バッサリ倒されているかもしれません。
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