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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

FRB利上げ実施 中小企業に痛手 そして、世界は日本化 Japanification へ

 2月1日に米国の中央銀行FRBは予想通り、0.25%利上げを実施しました。FRBは今後も、3/22、5/3の政策決定会合(FOMC)で0.25%ずつ利上げを実施し、その後は政策金利を5.1%の高いまま据え置くと予想されます。

 米国のインフレは昨年夏にはピークを打ち、消費者物価指数(CPI)も6%台に低下しています。しかし、物価が以前よりは落ち着いたとはいえ、コロナショック前の水準に戻ったわけではありません。ガソリン代や食料品は高いままだし、何よりも一般世帯にとっては、金利上昇によって住宅ローンや自動車ローンなどの毎月の利払い額が増えて、家計を圧迫しています。

 金利上昇が具体的に家計にとってどのくらいのインパクトがあるのか?ざっくりみてみましょう。下のグラフは銀行のプライムローン・レート(銀行が企業に貸し出す際の金利)の推移で、米国10年債(長期金利)の動向に左右されます。そして、住宅ローンや自動車ローンなど消費者が関わる長期の借り入れの金利にも影響を与えます。ご覧のとおり、昨年年初の3.25%から年末には7.5%と、2倍以上に上昇しました。

 例えば、毎月10万円のローンを払っている世帯では、20万円以上の負担になる。さらに、ガソリン代、食料品、電気料金、ガス代などが高どまりしている。こんな時にインフレ6%以上の賃上げがあればまだ良いですが、企業はフルタイムの人を減らしています。運悪く失職したら、本当に生活に困ります。

 また、米国の一般世帯の消費の縮こまりは、昨年の冴えないクリスマス商戦でも明らかです。小売売上高の伸びは小さく、小売店はたくさんの在庫を抱えています。消費者はクリスマスから年末年始をクレジットカードで借金して何とか乗り切ったようですが、クレジットカードのリボ払いの限度額もそろそろ限界かもしれません。このように、個人消費に暗雲が漂ってくると、そのマイナス影響を真っ先に受けるのは中小企業零細企業、および個人事業主です。

 米国で中小零細企業は「スモールビジネス(従業員250人以下)」のカテゴリーで、雇用全体の8割を支えています。日本と同様、中小企業は経済の基盤です。一般に中小企業は、2020年コロナショックから2年間ほどは政府の支給金や支援金でやりくりしてきました。が、2021年のインフレ、2022年3月からの利上げ、そして、2023年の賃上げ要求に対し、なかなか売上が伸びていかない苦境に立っています。

 大企業は2022年に株や債券を発行し、銀行からの借り入れ枠を拡大するなどキャッシュを備えてきました。しかし、景気後退となれば、銀行は中小企業に対して融資基準を厳しくします。日本であればこれから「貸し渋り」や「貸し剥がし」が起こるでしょう。

 下のグラフは、2021年から2022年の雇用件数の純増を示しています。コロナのロックダウン後に消費需要が一気に高まり、「ミニバブル」のような状況で、企業は雇用を増やしました。が、22年3月からの金利上昇に伴い、人件費削減に動いています。ニュースでは巨大IT企業による何千人、何万人といった雇用削減が伝えられますが、実態は「雇用の減少 + 個人消費の低下 + 借り入れコストの増加 + 銀行の貸し渋り」に直面する厳しいものです。

 景気判断の材料として「失業率」がよく注目されます。が、雇用統計は、遅行指標と呼ばれ、のちに改定されることも多く、その時の経済に実態を示しているとはいえません。特に中小企業など「草の根」的な経済活動の状況を把握するために、全米独立企業連盟「NFIB(National Federation of Independent Business)」が発表する指標が参考になります。

 下のグラフはNFIBによる「スモールビジネス信頼感指数」です。50年間の長期で見ると、グレーの縦の影の部分が景気後退(リセッション)期です。これまで不況がかなり深まったのが、1970年代の2度にわたるオイルショック、そして2008年のリーマンショックです。その間には湾岸戦争やITバブル崩壊などによるリセッションがあり、そのたびごとに、信頼感指数が楽観から悲観に大きく下げているのが分かります。まさに、スモールビジネスは「景気のカナリア」のようです。そして、目下の状況は、リセッションに向かっています。

 米国で起こっていることは日本でも起こります。今回のリセッションはおそらくグローバルな規模で起こります。その場合には、インフレよりも「デフレ不況」のリスクが高まるでしょう。世界の金融専門家は、この現象を「日本化 Japanification」と称し、警戒しています。

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