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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

銀行破綻危機が続く中、FRBは利上げを実施 アメリカの古き良き時代は去りつつある・・・

 5月3日、私は用事があって横浜に出かけました。横浜駅のホームがものすごい人混みで歩けないくらい。びっくりしました。「コロナ明け」を喜ぶ家族連れなどみなさんの表情が明るく感じました。

 さて、3日に米国ではFOMCがあり、FRBは予想通り0.25%の利上げを実施しました。利上げ発表後に、パウエル議長の記者会見がありました。パウエル氏は中央銀行の役目として雇用の安定、物価の安定を強調し、今のところ労働市場は落ち着いており、インフレ目標2%を目指す、6月にも更なる利上げを示唆しました。「利下げはしないのか」という記者の質問に対し、「否」と答えました。こうした会見の様子から、マーケットは6月まで利上げが続くが、7月以降は利上げ停止とみています。

 予想通りの利上げでS&P指数は0.5%上昇したものの、記者会見の後、下げに転じ、前日比 -0.7%となりました。また、長期金利が低下し、日米金利格差が縮小し、為替は136円 から134円台へ、円高に動きました。

 今後どうなるか?パウエル議長も当然、景気が減速していること、特に金利に敏感なセクター(住宅や金融)が冷え込んでいることは百も承知です。それでもタカ派スタンスを貫いているので、景気後退リスクは高まり、先日のファーストリパブリック銀行破綻から、リーマンショックを超える銀行破綻と信用収縮が懸念されています。

 下のグラフでは、黄色がリーマンショック時に破綻した銀行、それぞれの円の大きさが資産規模を示しています。2008年のワシントン・ミューチュアル破綻は米国最大規模で、その他数多くの中小銀行が破綻しています。そして、水色が2023年の銀行破綻を示しています。3行(シリコンバレー、シグニチャー、ファーストリパブリック)の破綻を合わせるとすでにワシントン・ミューチュアルの1.8倍の規模になっています。

 ファーストリパブリック銀行に次いで、パシフィック・ウェスタン銀行が経営危機に見舞われています。同行はシリコンバレー銀行と同様カリフォルニアを拠点とし、融資先の4分の3は商業用不動産関連、そしてベンチャーキャピタルです。同行の株価は3月に77%も下落し、急激な預金流出(バンクラン)が止まりません。

 ファーストリパブリック銀行が最大手のJPモルガン・チェースに吸収されたように、パシフィック・ウェスタン銀行もFDIC(連邦預金保険公社)の管理下に置かれて、負債は政府が引き取り、資産は競争入札にかけられるとみられます。こうして、中小の地銀が大手に再編されていくと、大手の寡占が今以上に進むと予想されます。

 ファーストリパブリック銀行の場合は、FDICが負債を引き受け、資産がJPモルガン・チェースに移り、ファーストリパブリックの株主や債権者が損失を被り、預金者は口座がJPモルガン・チェースに移っただけで大きな損失がないように見えます。しかし、こうした破綻ケースが増えるに従いFDICへの負担が増え、この政府機関への資金注入は税金で行われるため、いずれは納税者の負担になります。

 さらに、銀行破綻のための保険金を積み増すために、銀行ではさまざまな手数料をあげて、預金者への負担も大きくなるでしょう。口座管理、振込や各取引にかかる手数料は上昇しています。このように、銀行業界再編のコストは回り回って、納税者=預金者に降り掛かってきます。この負担は長きに渡り続くとみられます。

 こうした、銀行業界再編の波に中小の地銀やコミュニティバンク(信金信組)まで飲み込まれていくのでしょうか。そうあって欲しくないと強く願います。みなさんはクラシック映画「It’s a wonderful life 素晴らしきかな 人生」(1954年)をご覧になったことがありますか?クリスマス頃に必ず米国で上映されるファミリー映画です。

 ストーリーは、主人公(ニューヨーク州田舎町の住宅金融会社の経営者=ジェームズ・スチュアート)は、悪人の仕組んだ罠で大金を失い、経営危機に見舞われる、絶望した彼は自殺を図ろうとするが、天使が現れ・・・家族が町の人々と協力して資金を集め、破綻の危機は去り、家族と幸せを噛みしめる・・・」というクリスマス・ファンタジーです。

 家族の愛、コミュニティの絆、健全なコミュニティバンクが地域経済を支え・・・こうした草の根的な古き良きアメリカは失われたのか?

wiki:素晴らしき哉、人生!

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