気になる中東情勢 金融地政学の観点から
10月7日週末ユダヤの仮庵(かりいお)の祭りの最中に、過激派ガザ地区を実効支配しているテロ組織ハマスが、イスラエルを陸海空から奇襲しました。ハマス側はパラグライダーで乗り込むなど、周到な事前準備をしていたこと、その裏にはイランの支援があることがわかっています。さらにイランの裏はイラン原油を輸入する中国があります。
今回の中東情勢不安定化に関しては、金融戦争(Financial War)も同時進行し、地政学リスクと金融市場リスクが折り重なっていく様相が見て取れます。
今、世界秩序が大きく変化しています。私は、世界は二つの陣営に分断されつつあると思います。二つの陣営とは主要先進国(G7)と「BRICsプラス」です。分断のきっかけは昨年2022年2月に始まったウクライナ戦争で、米国はロシアに対して国際金融のドル決済システム(SWIFT)から排除するなど金融制裁を課してきました。また、米国は中国との中国に対して関税障壁を設けるなど貿易戦争を継続中です。
このように米国との金融戦争状態にあるロシアと貿易戦争状態にある中国が接近し、この8月には南アでBRICs会議が開かれました。現在は加盟国が6カ国増え「BRICsプラス」を構成しています。さらに低所得国レベルから中進国への発展を目指すアフリカや南米が加わり「グローバルサウス」という陣営を形成しています。彼らは主要先進国(G7)とは別のBRICs通貨圏を目指し、ドルの覇権に挑戦しようとしています。
中露接近の象徴的な出来事は、10月18日にプーチン大統領が北京を訪問し、習近平主席と会談したことです。ニュースでは、中露は一帯一路で連携を強化し、両国の貿易額は既に過去最高に達し、今後年30兆円を目指すということです。また、ロシアは中国への穀物輸出(260億ドル=3900億円)も確約し、モンゴル経由のパイプライン計画「シベリアの力2」で中国への天然ガス供給を図ります。また、プーチン訪中と同時にロシア外相が北朝鮮を訪れ、両国の協力強化を図ると報道されています。日本の安全保障上非常に重大なことと思います。
バイデン政権発足以降、BRICsプラス諸国は自分たちの共通通貨を推し進め、「ドル離れ」を起こしドル覇権に挑戦しています。この動きに対して米国の金融当局はBRICsプラスに対する「金融戦争」を仕掛けています。具体的には、米国長期金利の上昇がドル高を牽引しています。
目下米国長期金利が5%に接近し、ドル高に動いています。BRICs諸国が国際金融市場で資金調達を行う場合、多くはドル建て債券を発行します。ドル高は、新興諸国にとってドル建て債務をより一層重荷で、自国通貨での返済額が水増しされ、負債の重荷は増えるばかりです。
さらにグローバルサウス諸国では、食料品価格が高騰しています。下の地図をご覧下さい。濃い青で示されたアルゼンチン、ベネズエラ、エジプト、トルコ、イラン、パキスタン、ジンバブエ等で食品価格が30%以上も高騰しています。
もう一点、注目したことがあります。国債がデフォルト間近にある諸国です。下のグラフは米国債利回りとのスプレッドを示しています。例えば、エチオピアは米国10年債利回りのスプレッド約46%と、最もデフォルトリスクが高く、また、食料品価格が高騰しているパキスタン、アルゼンチン、エジプトでは国債のデフォルト懸念も高まっています。こうした諸国ではと政情不安が高まり、反政府活動や過激派のテロ攻撃が起こりやすくなり、地政学リスクが高まります。
極左民主党バイデン政権と裏で支えるネオコンは、「ドルの攻防」でドル債務を抱える諸国の地政学リスクを高める効果を狙っています。そして、その米国国内では2024大統領選挙に向けて情勢が流動的です。具体的にはリセッション(景気後退)リスクが高まり、ウクライナとイスラエルに巨額の予算を投じるバイデン政権への批判も高まっています。長期金利はリーマンショック直前の16年ぶりの高さに達し、中東情勢を鑑み、FRBは11月1日のFOMCに利上げを見送る構えです。
一般に10-12月は株式相場の上昇する季節です。ただしいつもそうだというわけではなく、2018年第4四半期には米中冷戦で株価は下げました。今後、年末に向けて地政学リスクと金融市場のリスクがシンクロナイズしていきます。国際関係や主要国の外交の動きからも目が離せません。
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