アルバート・ウォジンローア博士は、かつてボルカー氏と連銀で机を並べた往年のエコノミストです。博士の金利予想には定評があります。現在、マンハッタン5番街にオフィスを構える某ヘッジファンドのアドバイザーをされ、私は博士から四半期ごとにマーケットコメントを頂いています。
直近のコメント(6月14日付け)は、” A Strange Poker Game”(マーケットと連銀の奇妙なポーカーゲーム)がそのタイトルです。
私なりに解釈して、要点をまとめます。
1) 米国の企業動向はこの三ヶ月でそれほど大きな変化はありません。経済指標には予想よりも良いものと悪いものとが交ざり、総じて、成長力が弱く、失業率もそれほど改善していません。金融緩和政策と財政引締め政策とのどちらが優位に立つか決め手がない状況といえます。
2) 米国GDPは2%程度の伸び、ゼロに近い金利、インフレ懸念がないという状況で、しびりをきらせた消費者が住宅や自動車、トラックを買い始め、個人消費を盛り上げました。その結果、景気後退へ向かう恐怖感がなくなり、FRBの量的緩和(QE)が拡大から縮小に向かう方向性が見えました。ところが、一部のメディアはQE終了に反対し、景気が弱いなか財政引締めを行い資産価格の下落を招くことを先延ばししようとしました。
3) このように、FRBとマーケットはポーカーゲームのような対話を続けています。FRBは毎日といっていいほど、手持ちのカードをマーケットに示しています。それによって、マーケットは、いつ、どのくらいFRBが市場での国債購入額を減らすかを見極めようとしています。FRBは透明性を高め、マーケットに情報を提供しています。
4) 世界を見渡すと、米国以外の諸国の景気も良くはありません。ユーロ圏の経済(ドイツを除く)は下げ止まらず、中国の成長鈍化も明らかです。インド、ブラジル、インドネシア、トルコも景気が弱くなっています。日本だけは、企業活動はゆっくりだが確実に上向いています。FRBのQEよりは規模が小さいものの金融緩和策のおかげです。一方、日銀の緩和策は円安を招きましたが、急激な円安が国内・海外で政治問題となるにつれ、円安による景気回復がどこまで続くのか疑問視されています。総じて、世界経済は予想を下回る成長と思われます。
5) 今後2年ほどは、米国の雇用は平均を下回るペースでしか改善していかないとみられます。この秋の米国議会では歳出削減策が通りそうです。財政緊縮が雇用促進に歯止めをかけるでしょう。また、このところの長期金利上昇で、FRBはすでにモーゲージ債購入を減らしています。財政赤字削減の進行とQE縮小のタイミング調整はたいへん微妙です。また、雇用や賃金の改善が速く進めば、当然ながら、金利上昇懸念も浮上してきます。