米国の中東政策、失敗した大戦略
シリアの内戦が激しさを増し、多くの市民が化学兵器の犠牲になっています。ウォールストリート紙ウィークエンド版にはビニール袋に包まれた多数の死体が床に並ぶ痛ましい写真が掲載されました。さらに衝撃的なのは「失敗に終わった大戦略: Our Failed Grand Strategy」(WSJ Aug 24-25) というオバマ大統領の中東政策を批判する記事です。
エジプトではムスリム同胞団のモルシ氏が拘束され、ムバラク元大統領が政権に返り咲く動きが出るなど内戦直前の緊迫した情勢です。エジプトでは軍部が国民経済の40%を占めるなど、圧倒的な権力基盤を保持しています。
隣国トルコではエルドアン首相がジャーナリストへの思想弾圧を強めるなど、抑圧的な動きを加速させています。また、イスラエルは23日、レバノンのロケット弾攻撃の報復としてベイルート近郊を空爆しました。中東のメルトダウン・全面戦争がいつ起こるか不穏な動きが重なっています。
Bard Collegeのミード教授(Walter Russell Mead, professor of Foreign Affairs and Humanities)は、「大戦略の失敗」として米国の中東政策を分析しています。以下、重要だと思われる点をまとめておきます。
・ 米国はムスリム穏健派を中心に中東地域で民主化を進めようとしたが、その見通しは甘かった。しかも、民主化推進に際して、サウジアラビアとイスラエルとの関係を悪くしてしまった。
・ エジプトでは、年老いたムバラク大統領が自身の息子に権力を譲り、世襲制へ動いたが、将軍らが断固阻止した。そのすき間をぬってムスリム同胞団が初めて選挙で政権についたものの、その基盤は極めて脆弱。
・ サウジアラビアにとって、ムスリム同胞団とオットーマン帝国の栄光を企むエルドアン政権の野心は、スンニ派の脅威と映る。また、民主化を煽動し、中東地域の指導権を狙うカタールとアルジェジーラがエジプトとトルコのデモ隊に資金を提供していることに、サウジは地域全体が不安定化に向かうと警戒している。
・ シリア内戦に米国が早めに介入できなかったことは失策に尽きる。ロシアとイランがアサド政権を支え、シリア情勢は悪化の一途をたどる。そうした混乱に乗じて、宗派抗争やエスニック・クレンジングが激しさを増し、シリアからレバノン、イラク、トルコへと混乱が拡大する可能性がある。
・ 混乱が深まるにつれ、湾岸の富裕国からの資金援助を得た急進派がテロリスト集団として訓練を受け再び力を盛り返す。じっさい、ビンラディン殺害から、アフガニスタンとパキスタンでテロの脅威は増している。
・ 中東でのイランの影響力が大きくなるにつれ、イスラエルとサウジは強力関係を深める。米国はイラン政策の根本的見直しが必要。
チュニジアから始まった「中東の春」は、地域全体が戦火にまみれる状況にさしかかっています。そして、米国を始め、中国、ロシアもまた、この地域でどのような利権を獲得できるか虎視眈々と機会を狙っています。
日本の中東外交もまた、複雑に絡み合った大国の虎の尾を踏まないよう細心の注意が必要です。