FRBはペーパーバック・ライター
先週、FRBの政策決定会議(FOMC)で量的緩和(QE)持続と発表されました。まだペーパーマネー全盛が続くという意味にもとれます。問題は、いつまで?
グリーンスパン元FRB議長は、かつて自ら作り出した住宅バブルを「根拠なき熱狂」と警告しましたが、今のFRBはお札(ペーパーマネー)を市場に回す輪転機のようで、「根拠なきペーパー」を警告すべき立場にあります。
このままいけば、「信用創造」を行う一国の中央銀行が、安物作家の大量生産という意味で「ペーパーバック・ライター」(ビートルズのヒット曲にもあります)になってしまいます。
市場に出回った大量のマネーは、投資収益を求めて世界中の金融市場を駆け巡ります。金融市場の取引高が増え、ペーパーマネーは収益を生むごとに自己増殖して膨らんでいきます。その一方で、実体経済とのギャップがどんどん拡大していきます。この現象は米国のみならず、黒田日銀総裁のもとで量的緩和を図る日本にも当てはまるのです。
ペーパーマネーと実体経済のギャップを表す一例が、金(ゴールド)です。ペーパーとしてゴールド(金の先物)は売り、実体としてのゴールド(金の実需)は買いと、別のレベルで動いています。大手ジファンドは、9月に量的緩和が縮小に向かう動き(tapering)をにらんで金ショート(空売り)を仕込んでいます。金価格が下げてくれば、伝統的に金を身近な必需品とするインド等で需要が高まり、さらに買いが入ります。
金の動きからペーパーマネーの動きが透けて見えます。私の懸念は中国のシャドーバンキングです。焦げ付き580兆円と推定され、不良債権処理のためには外貨準備を取崩すか、保有の米国債を売却するかといった選択肢がささやかれています。他方、中国は金を買っています。韓国中央銀行も同様、金を買っています。金が信用の最後の裏付け(last resort)となるのでしょうか。
中国のシャドーバンキングの原資は庶民が買い込んだ金融商品で、庶民にお金が戻ってくることはなさそうです。あるとき取り付け騒ぎが起こり、怒った庶民が蜂起する、軍隊が鎮圧するといった第二の文化大革命が起こらない限り、国内を一つにまとめ統治して行くのは難しいと思われます。尖閣諸島や様々な中国の動きも、そうした政治的混乱に乗じてヒト、モノ、カネが国外に一斉流出しないための封鎖措置の一環ではないかと、深読みしたくなります。
量的緩和縮小を急ぐとき、マーケットが実体経済に甚大な被害を及ぼす懸念があります。予想外の長期金利の急騰です。ベストなシナリオでは、量的緩和に伴い、景気が好転してくれば長期金利も緩やかに上昇します。しかし、ペーパーマネーと実体経済とがあまりにもかけ離れてしまうと、相場が荒れて、長期金利の上昇を招くリスクがあります。長期金利上昇は住宅ローン金利上昇を招くなど実体経済に大きな影響を与えます。
金融市場にはファットテイルの落とし穴がたくさんあります。ペーパーバック・ライターのシナリオどおりに、実体経済が成長に向かうよう祈るばかりです。
また、日本の国民経済を支えるのは、大手多国籍企業ではなく、国内の中堅中小企業です。そろそろ実体に沿った地道な政策が必要です。