グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

TPPと次の10年

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  昨年は「平成の開国」と取り上げられたTPP(環太平洋経済連携)がクローズアップされている。ちょうど、ジョージ・フリードマン教授の著書、”The Next Decade”(翻訳『激動予測』(早川書房)を読み、TPPの地政学上の意味を考えてみた。

 同書の第10章「西太平洋地域に向き合う」では、日本、中国、韓国が米国にとって次の10年でどのような意味を持つようになるのかがはっきりと示されている。要点をまとめておこう。

① 次の10年で中国経済は厳しい試練にさらされ、日本は失敗から回復し始める。

② 日本にとっても中国にとっても対米輸出が経済のカギを握っている。日本と同様、中国も輸出を通して経済成長を続ける。もし中国経済が失速すれば、国内の権力闘争が激化し、文化大革命のときのように経済は機能しなくなる。その時には既に中国は、米国との関係に関心を失っている。

 しかし、中国が分裂してしまうと日本の力が強まり、日米中の均衡が崩れる。米国にとってのベストなシナリオは、中国の重圧をできるだけ取り除くのと同時に、シーレーンなどで日本の対米依存を引き延ばす、しかし、日本を追い詰めないように気をつけなければならない。

③ 日本経済を動かしているのは企業連合と政府の非公式な協力関係であり、その仲介に銀行があり、銀行は政府からの貸し出しを受け、企業へ融資を行う。資金は収益性の高い事業に投資されるのではなく、終身雇用や年功序列といった非効率的な「日本型システム」を支える。完全雇用を維持し、敗者を出さないために成長を犠牲にするという日本型システムを守ることが日本の利益であった。これでは資本市場は発展していかない。

 今後、グローバル化の中で生き延びていくためには、日本は市場経済を政府の力で活性化させる必要に迫られる。

④ 韓国は先端技術の重要な中心地になる。南北朝鮮の統一があろうがなかろうが、韓国との関係が米国にとって西太平洋で最も重要な関係になる。これが、米韓FTAの背景である。

 TPPは明らかに「中国封じ込め」であるとともに、日中韓の三国の勢力均衡を図るための米国の経済政策である。

 ⑤ オーストラリアは、米国にとって韓国の次に重要な関係である。オーストラリアは国際貿易に大きく依存しながらも、シーレーンの安全を他国に委ねている。そして、今後、米国の太平洋戦略の重要な基地になる。

 ⑥ 韓国、オーストラリア、シンガポールの三国は、米国が日本と戦争になった場合に重要な同盟国になる。このシナリオは、次の太平洋戦争突入に備えたものである。

 TPPは、こうした地政学上のシナリオをベースに、米国が日本の金融市場で利益を確定しようとする企てで、実に米国の国益に沿っている。

 TPPは2008年から進められてきた案件である。2012年の大統領選挙を目前に、米国はリーマン・ショックで沈んだ金融サービス業界を復活させ、巨額の財政赤字を埋め、雇用を改善させなければならない。日本がTPPに参加すれば、米国がほしいのは日本の農業ではなく、金融サービスと医療サービス分野である。どちらも規制があり、歪みのあるマーケットである。

 日本の公的年金、郵便貯金、かんぽなど1400兆円の個人資産向けの投資運用、会計、法律も含む広い意味での金融サービス、そして、国民皆保険制度の自由化で広がる新たな製薬・医療など、収益の見込める業界に米国は参入しようとしている。

 次の10年、TPPで日本を活かさず殺さず、これが米国の国益に最も沿ったシナリオであり、じっさいにその意図にしたがい、外的環境が動いている。

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