IMF総会に参加した知人がその深刻な様子を話してくれた。IMF総会にはバーナンキFRB議長やトリシェECB総裁を含め、国際金融を司る最重要人物が顔をそろえていた。まず、ギリシャは既に破たんしている。参加者全員がこの事実に基づき、「ギリシャをどうリストラクチャリングするか」を話し合っていたという。
欧州のエリートは極端な言葉を好まないので、ドラスティックなアクションを好む米国人とは、物事の捉え方や対処法のトーンがやや異なるのだろう。経済規模の小さなギリシャについては何らかの措置はとられるだろうが、問題はその後に来るイタリア、スペインである。
イタリア国債にデフォルト懸念が出ると、日本国債にも影響が出そうだと知人は話していた。というのは、イタリア国債は大部分がイタリア国内の投資が保有しているという点で日本国債の状況に近い。ギリシャは独仏が支援するが、イタリアと日本では、自国民が泣けばすむだろうと他国は見ている。
ギリシャやイタリアについて日本と共通している点は、経済合理性を理解しない為政者が放漫経営した結果、国を破たんさせることになったいきさつであろう。2002年のエンロン、ワールドコム不正会計疑惑のソブリン版がギリシャで、スキャンダルにまみれた経営トップという意味ではイタリアは大王製紙元会長のソブリン版といえるだろう。
先週、米国大手ヘッジファンドの運用者が来日した。彼とは10年以上の付き合いだ。熱心な民主党支持者(彼の妻は民主党議員)であるが、「オバマ体制はDysfunctional(機能障害)に陥っている」と批判的だ。また、「オバマ体制がこのまま続けばリーマン・ショックのような大きなショックと金融危機が予想される」と悲観的だ。
「今アメリカに必要なのはジョンソン大統領のような政治家である。ジョンソン氏はベトナム戦争が誤りだったと認め、再選を求めなかった。なぜ事態を解決できない政治家が責任を取らずに居座り続け、経済を混乱させるのか」。この大物ヘッジファンド・マネジャーは、市場の混乱の際にいかに収益を最大化するか既に戦略を持っている。そのシナリオに基づいた政治批判である。
ジョンソン大統領のような政治家は稀であろう。為政者が正直にこう訴えることができるだろうか。「国民の皆さん、これまでの政策は詐欺でした、私は政治生命をかけて危機の収拾にあたります。しかし事態の解決には痛みが伴います。今、国民が痛みを分かち合い、力を合わせればきっと将来は開けます。」
過ちを認め、国民に苦難を強いることを言えば、次の選挙で当選できない。だから、真実を訴える勇気ある為政者はなかなかいない。しかし、その代償は国民が払う。国民から事実が隠されるとき、国民は騙され、愚弄され、国富は為政者と既得権益者たちの稼ぎ場となる。政治家の耳触りのよい言葉や「検討します」だけの政策でごまかされてきた国民がアホなのだから、政治家を選ぶ国民自身につけが回るのは当然だろう。
しかし、本当に無知のままでいてはギリシャのように国が崩壊して、国民の日常生活は津波に流されるようにあっという間に壊されてしまう。結局、自分で何とかする気概がなければ、「自滅してゆくアホなヤツ」と海外からもみなされるまでだ。自助努力のないギリシャやイタリア、明日は我が身と思うべし。