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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

人民元のゆくえ

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 週末のFT(フィナンシャルタイムズ)紙ではいっそうの人民元の切り上げと元の変動相場制への移行が論じられている。

 過去を振り返ると、米国が長きにわたったベトナム戦争(1960-75年)で戦費がかさみ、財政赤字が膨らみ、そのつじつまを合わせるように1971年にニクソンショックが起こり、金とドル紙幣の固定比率での兌換を停止し、ブレトンウッズ体制が終焉した。そして、ニクソンショックにはもう一つ、ニクソン大統領とキッシンジャー博士による中国訪問があった。

 2001年の世界同時多発テロからイラクへの侵攻、そしてアフガン駐留で戦費がかさんでいるところに2008年のリーマンショックが起こり、米政府の財政赤字は極度に膨れ上がった。アフガンから撤退するにしても費用がかかる。このつじつまを合わせるには人民元の切り上げが必要であろう。

 折しもFRBは2013年半ばまで低金利を続けると発表した。米国の実質的な金融緩和であり、自らの金利政策に縛りを入れるのは異例である。米国の需要の落ち込みが続き、実質的にドルの供給量が増えると、米国への輸出で国富を猛進した中国への影響は大きい。米国の量的緩和は中国国内でのインフレ圧力を増加させるのだ。

 中国は2010年初頭からインフレとの戦いを続けている。中国の7月の消費者物価指数(CPI)は6.5%上昇と、食料品の値上げが響いている。インフレは社会不安をあおるため、なんとしても中国政府はインフレを5%程度に封じ込めなければならない。

 中国がインフレに陥りやすい理由として、政治的な構造がある。資本主義において、適正な価格は需給関係など市場で決定される。しかし、中国ではまず製造にかかわった設備や雇用など通常のコストに加え、関係各位へのリベートが上乗せされて、価格が決定される。よって価格は高く設定され、インフレが起こりやすい。

 しかも、だれにいくらのリベートを支払うかは、序列で決まっている。中国の価格決定メカニズムは、関係者への利益供与(バラマキ)を前提とした社会政治構造が支えている。経済そのものがコスト・ベースの権力構造の上に成り立っている。中国のこの体制は続くだろう。世界の誰もが中国政府が崩壊し、金融市場が大混乱するのを望んでいないからだ。

 一般に、一国の通貨の価値は国民経済の力を反映したものになる。人民元がグローバル通貨の仲間入りを果たすとき、中国的なコスト・ベース経済システムを世界が受け入れ、取引することになる。中国はインフレを世界に輸出することになろう。

 米国はニクソン訪中でパンドーらの箱を開けた。そして、自分以外の他国を中国に売り渡してでも、米国は自らの国益を守ることになるだろう。

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