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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

福島原発、世界にとってのリスク要因

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 「風が吹けば桶屋が儲かる」、江戸時代の小話のように、経済・金融ではひとつの事件が回りまわってあらゆる事象に影響を与える。東電の福島原発事故は、回りまわって世界の市場に金融不安の火種をまいている。この原発事故の収束が遅れれば遅れるほど、金融リスクは高まるだろう。

 3日に発表された米国の失業率は9.1%と前月より悪化。大震災で自動車部品のサプライチェーンが被害を受け、トヨタやホンダなど日本メーカーの部品が調達できずに生産が落ち込み、工場操業の一時停止などで雇用が落ち込んだことが影響している。

 震災以前から米国経済の回復は弱かったが、5月半ばからGDPは下降に転じ、二番底の懸念もある。夏場にかけて失業率が改善しなければオバマ大統領再選が危ぶまれる。

 欧州市場では、ギリシャ財政危機を始めとするPIIGsソブリン債のデフォルト懸念がくすぶり続けている。欧州経済を支えるドイツでは、国内の原発17基すべてを廃棄すると決めるなど、福島原発事故をきっかけに緑の党が躍進するなど原発賛成派のメルケル首相の立場が弱くなっている。

 ドイツでは原発廃止で自国のエネルギー供給がひっ迫し、コスト上昇が見込まれる事情から、経済の落ち込みを避けるためにはギリシャ支援どころではないといった国民の声が後押しし、政府の欧州債券市場の対応には遅れがでそうだ。

 インドや中国でも原発停止の動きが出ている。原発が止まれば、新興国で化石燃料の需要が高まり、さらなる資源エネルギー価格上昇を招くだろう。資源価格高騰が続けば製品価格に跳ね返るなどインフレと成長鈍化につながりそうだ。さらに食料品価格が高騰すれば、特に中国では政情不安、体制への反乱に引火しかねない。

 日本の大震災の映像は世界に流れた。震災当時ハワイにいた私の叔父やNY在住の友人は、津波の被害を報じる米国のTVニュースで、死体が海を埋め尽くす映像を見てショックを受けたという。海外では日本のメディアよりもずっと悲惨で真実に近い現実が報じられていた。

 福島原発事故についても、ルモンド紙を始め海外勢は、早くからメルトダウンと広範囲にわたる放射能汚染の被害について報道していた。「国民がパニックになるのを抑制する」政府の報道規制のおかげで、悲惨な事実に直面していないのは国内にいる日本国民である。

 このところ、IAEA(国際原子力機関)への報告書でやっと日本側から事実確認が出てきたようだが、すでに震災から3カ月もたっており、これまでの政府の事実把握と対応は何だったのだろうか。あらためて憤りを感じる。実際に、日本の危機管理体制の酷さが露呈し、世界の原発推進に歯止めがかかってしまった。危機管理を誤ると原発事故でどれほど国民が悲惨な目に会うかを世界が知ったのだ。その当事者意識すらいまだに足りていないのが、東電と政府である。

 日本の政府の危機管理体制の甘さは、日本企業そして日本で事業を行う外国企業にとって大きな「事業リスク」と認識されている。このままでは成長性のある中小企業が日本脱出を図る日も近い。本当の空洞化が始まりそうだ。

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