グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

テーパリングに伴う急激な円高について

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このところ103円台の円安です。一般のニュースでは、11月の米国雇用統計で失業率7%に低下し、米国の景気に楽観的な見方が広がり、連銀(FRB)がこれまでの量的緩和を縮小方向に転じる(いわゆるテーパリング開始)可能性が高まったため、ドルが対円で続伸していると伝えられています。

その時々のマーケットの方向感とは裏腹に、円安・円高には金融市場の大きな仕掛けがあると思います。植草一秀氏がその仕掛けについて、「外貨準備米国国債売却のすすめ」(12月2日付)で書かれています。

http://centralshoji.blog.fc2.com/blog-entry-73.html

個人的には植草氏とは意見が異なりますが、外貨準備を用いた円ドルのやり取りを見ていると、通貨のウラに日米同盟の本質が見えてきます。植草氏はブログで、以下の事実を指摘しています。簡単にまとめますと、「2007年6月末で、外貨準備残高は9136億円だった。円換算すると1ドル124円で113.3兆円。その後2011年までに財務省は米国債購入で残高を38 22億ドル積み増した。円換算すると当時の平均レート100円/ドルで38.22兆円。その4年半で追加投入分を合わせて151.1兆円となった。ところが、75.9円と円高が進み、評価額は98.3兆円となり、53.2兆円の評価損となった。」

2008年9月にはリーマンショックが起こり、世界が金融恐慌の崖っぷちに立ちました。日本の50兆円が、世界を恐慌から救うのに役に立ったと評価すべきかもしれません。あるいは、植草氏のように「その後のドル高円安で、1兆2767億ドル=円換算130.2兆円までに回復している。30兆円分取り戻した今こそ米国債を売るべきだ」という意見もあります。

リーマンショックから5年たちましたが、来年2月から再燃する「政府一時閉鎖」問題、イエレンFRB議長就任、オバマケアのやり直しなどで、米国は金融・財政問題で、もう一山二山も超えなければなりません。

その苦しさは、米国の外交の失敗にも現れています。「貧すれば鈍する」というか、オバマ大統領とスーザン・ライス大統領補佐官は、中国に歩み寄り、米中協力関係を基軸にした国際関係を示しました。その概要は、ライス補佐官が11月20日にジョージタウン大学で行ったスピーチ “America’s Future in Asia”にまとめられています。

http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2013/11/21/remarks-prepared-delivery-national-security-advisor-susan-e-rice

こうした米国の中国への甘い期待は、すぐに裏切られました。弱いと見ると徹底的に敵を叩く、強いと見ると戦わないのが中国流。弱いと見られた米国に対して、中国は尖閣諸島や北朝鮮の問題でどんどん挑発的な態度に出ています。

オバマ政権が中東外交で失敗したこと(シリア情勢など)については、このメルマガでも以前お伝えしましたが、こんどはアジア外交でも難しい局面に立っています。イランの非核化と北朝鮮はその失敗の帰結となるでしょう。また、習体制が軍部を掌握し、政治的独裁と経済自由化をはかる中国の行方を注視する必要があります。

米中外交のウラで金融の要は、通貨にあります。「金持ちケンカせず」というように、米国、中国、日本といったGDPトップスリーが戦火を交えることがない代わりに、通貨での調整が起こります。テーパリングに開始にあたり、円高へのブレが懸念されます。

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