グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

2012年のFat Tails

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  今年はすべてが試され、旧態依然の権威が地に落ち、どんでん返しが起こるときだと感じている。日本についても、世界についても。

 まず日本について。昨年の3・11大震災と福島原発事故はその始まりである。自民党政権時代に全国各地に原子力発電所を作った。大型の利権が絡んだとはいえ、核を管理できない、危機対応能力のない原発事業は、核攻撃に備えずに核兵器を保有する国がないように、あり得ないというかあってはいけない国の体制だった。福島原発は、自国に誤って核ミサイルを撃ち込み、自国民を被害者にしたようなものだ。民主党に政権が移行しても事態は改善するどころか、隠蔽体質のままさらに悪化していくようにみえる。

 私が最も恐れるのは、日本が統一国家としての機能と正当性そのものを失ってしまうことだ。今、福島の被害者の皆さんは住み慣れた故郷に戻れない。「福島から来た」ことがわかると差別を受けるのでよその土地でひっそりと暮らしている。その一方で、地方政治が変わろうとしている。大阪都構想で大阪が元気になるのは結構だが、大阪だって震災や原発のリスクはある。福島を放ったままでは日本という国家が分断されていくように感じる。

 チェルノブイリと同等の原発事故として政府はそれなりの対応をすべきなのに、「臭いものにはふた」のように事実を国民に知らせることができない。「事実を知ると国民がパニックになる」という理由よりも「政府がパニックになっているのを国民に知られたくない」という理由からの判断としか思えない。その犠牲になったのが福島である。この現実を「福島の悲劇」と言いたい。

 こうした状況で既存の政党政治が何の役にも立たないのは明らかだ。原発事故など様々なリスクに対して警鐘を鳴らしてきた良心をもった専門家や小さき市民を踏みにじってきた政治家は、自分たちがよって立つ基盤と信頼が壊れていることに気がついていない。日本が試されるのはもう一度大きな災害が襲うときだ。国民全体が真の民主主義を求めれば、経済復興と自立を果たせると思う。

 次に世界について。2012年の金融市場について、知人のヘッジファンド・マネジャーD氏は次のように語る。The range of possible investment outcomes for the New Year is wide… with fat tails. 世界の金融市場は大きなマクロ・リスクに支配される。その波乱要因は何か。

 D氏は、FRBがECBのドルとのスワップによる流動性供与を行い、2013年まで米国短期金利がほぼゼロで推移し、右上がりのイールドカーブから投資資金は活発に動くとみている。米企業の収益も回復している。問題は11月の大統領選挙の直前にくる財政赤字上限をめぐる政治的な取引である。共和党やティーパーティがさらなる米国債格下げや連邦政府のシャットダウンを辞さなければどうなるか。これがFat tailsリスク(起こる確率は極めて小さいが、その損失は極めて大きい)のひとつである。

 私は、イランとのイスラエルの関係悪化やホルムズ海峡を通過できなくなり原油価格高騰や日本のとってのオイルショックを懸念している。原発停止に加え原油価格が高騰すればこの夏昨年よりもいっそうの電力不足に追い詰められやしないか。

 1970年代のオイルショックでは、先進国で失業とインフレ、スタグフレーション不況が起こった。再びオイルショックが起こるとすれば、新興国経済への打撃がいっそう大きいだろう。

 2012年の投資運用は手堅いボトムアップの株式ロング・ショートなど、ディフェンスに徹し資産保全を図るべきだろう。

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