グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

グローバルマネーはユーロからアジアへ、有事に備えた危機管理体制も必要

第一次世界大戦が始まって百年目となる8月5日、ヨーロッパ各地で王族たちが集合して記念式典が行われている。この1ヶ月ほどのグローバルマネーの動きをみると、欧州とロシアには弱気である。株式投資では、資金はユーロ圏から流出してアジア株(インド、台湾、タイ、中国、香港、シンガポール)へと流入している。

 

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1日に発表された米国雇用統計は、失業率6.2%と大きな改善は見られず、マーケットはFRBの利上げは近いうちにはないと見込んでいる。まだリスクを取っても大丈夫だと見込んだマネーは、成長性の高いアジアへ向かうだろう。先日、大手ヘッジファンドの営業マンがアジアの機関投資家を訪れた。彼によると、中国や韓国のSWF(政府系ファンド)では今後、自国で優れたヘッジファンド運用者を育成していくと言う。日本のGPIFが国内株式に資産配分(アロケーション)を若干増やすとかいうレベルの話ではない。国が生き残るためには、10年、20年先を見て、国富を増やせる人材を育てるという使命感をしっかり持っている。

 

さて、投資運用に積極的に動くアジア勢がいる反面、今年後半の危機に備えようとする人も多く、知人のマーケット関係者も「今年はもう夏休みを取ってしまった」と言う。夏場に油断すると、8月後半から10月にかけて大きな金融危機に巻き込まれる可能性が高い。今年は特に、警戒感が高い。

 

先週あたりから、ロシアのウクライナ情勢、イスラエルのガザ地区攻撃といった軍事衝突に加え、中国指導部の大物政治家、周永康の失脚が報じられ、国内の激しい権力闘争の様子が伝えられている。さらに、西アフリカでエボラ出血熱が拡大し、致死性の高いこの感染症にかかった現地の米国人医師が米国で治療を受けるために専用チャーター機でジョージア州の空軍基地に搬送されるニュースが放映された。このように、世界は、戦争の危機、そして、疫病の大流行といった危機に直面している。

 

国際金融市場では、リーマンショックの教訓から、金融危機に備えて既に多くの手当がなされている。「国際スワップ・デリバティブ協会」はアルゼンチン国債に対して既にデフォルト(債務不履行)状態と見なし、アルゼンチン国債を対象にするCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を購入していた投資家などが「保険金」を受け取る見通しとなった。この措置によって、連鎖的な混乱を最小限に抑えることができるだろう。

 

また、高頻度トレーディング(HFT)に対して、ニューヨーク司法当局が動き出した。規制当局が神経を尖らせる理由は、コンピュータを駆使して千分の一秒で取引を行うHFTは主に米国株をトレーディングしており、決済などシステム上の問題が起これば市場を混乱させ、個人投資家や世界中に損失を拡大させるためだ。実際、2010年5月6日にダウ平均株価が10分足らずのうちに9%下落する「フラッシュ・クラッシュ(瞬間的急落)」があり、大惨事寸前だった。米国規制当局は、HFTを行うヘッジファンドや大手投資銀行の自己勘定部門の取引内容について調査を始めている。大手機関投資家などプロ同士が行うブロック・トレーディング(大量の株式を、取引所を通さずに直接売買する)が瞬時に行われる電子取引にはテクノロジーのニアミスの可能性が絶えずある。金融危機の引き金にならないよう、不正取引が行われていないか、そして、フラッシュ・クラッシュを未然に防止すべく、当局は監督の目を光らせている。

 

最後に宇宙からのリスクについて。ポール・シンガー氏率いる大手ヘッジファンド、エリオット・マネジメントは、太陽嵐の発生による電磁パルス(EMP)が引き起こす大規模な「ブラックアウト(配電・通信システムの機能停止)」に対して投資家に警戒を呼びかけている。米国議会でもこの「想定外」の広範囲なカタストロフィーについて検討している。金融においても危機管理とはまさに「居安思危」である。

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