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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

再燃する通貨安戦争

世界の指導者を含め多くの人が夏休みを取る8月半ば、マーケットは薄商いである。これから年末にかけてFRBが利上げに踏み切るという期待から、豪ドルやニュージーランドドルなどコモディティ連動型の通貨、そして、原油価格に連動するカナダドルとノルウェークローネが対ドルで下げている。さらに、11・12日連続して中国の中央銀行(人民銀行)が人民元2%切下げを発表し、原油・コモディティに加え関連株をさらに押し下げた。

全世界がイエレンFRB議長の動向を注視するなか、ブルームバーグのマシュー・ウィンクラー記者は、前任者のグリーンスパン氏とバーナンキ氏と比較して、イエレン議長の指導のもと、米国債および米国株式市場のボラティリティは過去25年で最低水準に達し、また失業率も7年来の低さとなり、同議長はマーケットの安定化におおいに貢献したとその功績を讃えている。

 

http://www.bloombergview.com/articles/2015-08-10/janet-yellen-calms-markets-from-her-chair-at-the-fed

 

 

一般に、中央銀行の金融政策は通貨・物価の安定を目的としているが、ホンネはマーケットの安定化政策が最重要であるようだ。特に株式市場の動向は、確定拠出年金を通して年金を株式に連動して運用する個人の消費行動に直結している。米国では個人消費がGDPの7割近くを占めるので、安定成長と雇用改善のためにはマーケットの安定化が必須である。

この点、人民元切り下げで通貨安戦争を仕掛ける中国では、政府も中央銀行も一体となって株式市場安定化のためには手段を選ばないようだ。中国の米国債保有高は1.2兆ドルと日本に次ぐ。そのため、人民元は常に対ドルレートを意識していたはずだ。特に世界の株式相場の相関性が高まり、金融危機の際には世界同時株安が起こることから、米中は金融市場安定のために緊密な連携を取り合っていたはずだ。ところが、中国は株式バブル破綻を乗り越えて一気に人民元の国際化に向かおうとしている。具体的には、2、3年以内に変動相場制に移行し、SDR(国際準備資産)を構成する通貨バスケットに人民元が入ることを目指す。IMFは8月11日付コメントで、こうした中国の動きに歓迎を示している。

 

http://www.imf.org/external/country/CHN/rr/2015/0811.pdf

 

とはいえ、人民元切り下げは他のアジア諸国との通貨安戦争に発展するだろう。

日本はといえば、2012年12月以来、株式ロング・日本円ショートという組み合わせは「安倍トレード」と言われ、アベノミクスという上げ潮に乗ってこれまで多くの投資家に収益をもたらした。しかし、ここに来て、アジア通貨安競争と株安の嵐に耐えられるだろうか。加えて、安倍政権支持率の低下が懸念される。不支持率の急上昇を海外投資家が黙って見ているわけはない。日銀やGPIFが株式相場を買い支えている間に、賃金上昇や法人税引き下げなどを実施してほしいし、そのためには長期安定政権として踏みとどまってほしいと思う。15日終戦記念日の戦後70年談話、そして、17日の第二四半期GDP発表を見守りたい。

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