米大統領選と利上げの時期
米国経済はインフレ懸念もなく落ち着いてはいるものの、3日に発表された5月の米雇用統計では雇用者数の伸びが予想を大きく下回わり、約6年ぶりの低水準となった。週明け6日にイエレンFRB議長はフィラデルフィアで講演し、具体的な利上げの時期については明確に示さなかったものの、市場は「今後数ヶ月のうちに」追加利上げが実施されると見ている。
市場は6月の利上げは遠のいたと判断し、株式市場はリスクオンへ切り替わり、株高へ動いた。16日以降のFOMCや日銀政策決定会議では金利に関しては現状維持が確認されるものと予想される。また、その翌週23日に英国のEU離脱をめぐる国民投票があり、市場はリスクの高まりを警戒している。
さて、米大統領選挙ではヒラリー・クリントン氏が必要な指名獲得票数を集め、女性初の民主党大統領候補となった。これからクリントン対トランプの戦いが本格化する。そして、FRB利上げの時期もまた大統領選挙の行方と深く関わりそうだ。FRBは政治から独立しているとはいうものの、時のホワイトハウスの影響を大きく受ける。過去を振り返ると、共和党政権下で大統領選が近づくと金利が低下し、逆に、民主党政権下での大統領選ではその過程で利上げが実施されてきた。
(ブルームバーグ記事 6月7日付”The Fed Risks helping Trump”)
http://www.bloomberg.com/view/articles/2016-06-07/the-fed-risks-helping-trump
トランプ候補は「なぜ利上げをしないのか。低金利はオバマ政権に有利だからだ」とイエレン議長を名指しで批判している。FRBが「今後数ヶ月のうちに」利上げを実施する場合、つまり、7月か9月に利上げがれば、トランプ候補に有利になる可能性がある。
FRBの利上げは短期的に株式相場を押し下げ、世界株安のリスクが高まる傾向がある。この場合、相場の混乱を収拾するために何かこれまでとは異なる政策を求める機運が高まり、新しい政治体制へ移行しやすくなる。つまり政権交代が起こりやすくなる。
たとえば、2008年9月のリーマンショックは同年11月の大統領選挙に影響を与えた。ブッシュ共和党からオバマ民主党政権に変わる直前の金融危機は、今までとは異なる政権を求める機運を高め、黒人初のオバマ大統領を誕生させた政権交代をサポートしたともいえる。今回の利上げがどのように新しい政権誕生に寄与するかが注目される。
トランプ氏に対しては、彼を直接知る多くの米国の投資家やエスタブリッシュメントは「人の意見を一切聞かない、自分の本能のみに従い行動する危険な人物」と評している。不人気投票と消去法という選挙戦という観点から、今後選挙資金がクリントン氏へ流れる可能性がある。
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