トランプ・ラリーの先にあるものは?
2月28日(日本時間3月1日午前11時)にトランプ大統領による初めての議会演説が行われた。国防費500億ドル拡大、インフラ投資1兆ドル、中間層への税負担軽減、オバマケアの巻き戻し、移民政策など、その内容には特に目新しさはなく、今後の政策執行の具体性について詳細も明らかにならなかった。ただ、レーガン大統領がかつて体現したような明るくておおらかで楽観的なアメリカを、トランプ氏が大統領イメージとして醸し出してくれれば、それだけでよかったのだろう。
トランプ大統領の話しを聞いていると、「1兆ドル投資や減税の原資はどこからくるのか?」と問いたくなる。なんといっても「先立つものはカネ」である。じつは、この議会演説に先立ち、ロス商務長官が日本からの資金調達を想定していると、インタビューに応えている。
以下、産経新聞(3/1)引用 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170301-00000566-san-bus_all
「トランプ大統領演説 1兆ドル投資を日本に期待 ロス米商務長官、年金ファンドなど想定」
【ワシントン=小雲規生】ウィルバー・ロス米商務長官は2月28日、トランプ大統領が打ち出す1兆ドルのインフラ投資計画に関して、日本からの資金を受け入れることに期待感を示した。トランプ氏の施政方針演説後、記者団に対して話した。
ロス氏はインフラ投資計画では連邦政府の資金を使うだけでなく、民間からの資金調達も想定していると説明。そのうえで日本が米国の同盟国で、金融機関が巨額の資金を保有していることに触れ、「日本は素晴らしい資本の供給源だ」と述べた。
またロス氏は「日本政府の年金基金は巨大で、保有資産を分散しようとしている」と指摘し、米国のインフラ投資計画が、日本の年金ファンドなどの投資の受け皿になり得るとの見方を示した。
2月の日米首脳会談で安倍晋三首相がトランプ氏に対し「資金援助」の意思があると示唆したことも明らかにした。(以上)
年金ファンドとは「GPIF」か、国民年金基金か。日本政府からの資金を当て込んでいるというわけだ。GPIFが入っているのは政府の「特別会計」だ。特別会計には一般会計の4倍以上のお金があると報じられている。(参考 松浦武志『特別会計への道案内』)こうしたお金は、もともとは国民が働いて納めた税金であり、老後のために積み立てている年金である。それを政府が「アメリカ・ファースト」の原資としてよいのだろうか。もっとも、長期でリターンを出してくれれば、運用収益があるのかないのか実態さえ分からない数々の官民ファンドよりもマシかもしれない。
ところで、トランプ政権が目指すラストベルト(中西部)の雇用促進について、あるプラント会社の専門家がこう語った。「ラストベルト地帯の工場でもIT化が進み、単純労働ではロボットが人に置き換わっています。我々のプラント建設の現場では、今必要とされる溶接工や熟練労働者が足りません。アメリカにはこれから創出される雇用に見合う労働者がいないのが現実です。」
たしかにレーガン時代から始まった「産業の空洞化」で、手を汚す仕事は海外に出て行ってしまった。さらにIT革命後は、理数系に強いインド系、中国系の頭脳移民がコンピュータサイエンスやエンジニアリングの分野で多くの就労の機会を得た。IT革命の変化にすらついていけなかった白人労働者に、トランプ氏はどこまで手を差し伸べることができるのか。職能の足りない人たちがトランプ支持者とあっては、メキシコ国境に壁を建設するといった3Kのような仕事しかないのだろうか。
こうしたアメリカの現状を踏まえると、3月の利上げの可能性、金利上昇などを踏まえ、トランプ・ラリーの先には、巨額の資金調達と雇用のミスマッチという課題が待っているようにみえる。
今後の開催予定セミナー
3月21日(火) キャピタル・パートナーズ証券会社セミナーで大井幸子が講演
3月25日 第6回ソーシャルプロデューサーズカフェ
3月26日 大井投資塾
首都大学東京オープンユニバーシティ(OU)春学期の受講生開始
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