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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

トランプ瀬戸際外交に危険信号

 2月10-11日の日米首脳会談は穏やかなものだったが、その直後、12日に北朝鮮が弾道ミサイルを発射した。週明け13日には、マイケル・フリン大統領補佐官が突然辞任した。14日には金正男氏がマレーシア空港で襲撃され、毒殺された。北朝鮮がこの暗殺に関わったと報じられている。同日、コンウェイ大統領顧問がイバンカ・トランプのブランド購入を公衆に呼びかけた問題で、政治倫理局がホワイトハウス懲戒処分を勧告した。15日にはトランプ大統領がフリン氏を更迭。トランプ陣営揺らぎが報じられる中、15日にロシアのスパイ船舶が米東海岸(コネティカット州沖)に接近。何かがウラで大きく揺れている。

 昨年の大統領選挙中からフリン氏辞任に至るまで、トランプ政権にはロシアが深い影を落としている。昨年12月29日にオバマ前大統領は、ロシアが米大統領選中にサイバー攻撃を仕掛けたことへの報復措置として対ロ制裁を発表し、ロシア情報機関幹部、外交官ら35人を即時国外退去処分にした。オバマが最後の怒りの鉄拳を見せつけた。その頃、フリン氏は新政権発足前にもかかわらず「対ロ経済制裁の解除」をプーチン氏とトランプ新政権との間で協議していたと見られる。
 
参考記事 「規定違反でFBI捜査? 大統領補佐官、対ロ制裁協議か」(朝日新聞デジタル 2月11日) http://www.asahi.com/articles/ASK2C2W01K2CUHBI00B.html

“Calls for Russia Probe Mount for White House Reeling from Flynn Fallout”, Bloom berg (2月15日)
https://www.bloomberg.com/politics/articles/2017-02-14/flynn-s-ouster-sparks-new-gop-calls-for-wider-russia-probe?cmpid=BBD021517_BIZ

 選挙中からヒラリーにサイバー攻撃をして、大統領への道を開いてくれたプーチン氏に対して、トランプは「プーチンは優れたリーダー」と賞賛の言葉を述べて来た。そして、1月28日に初めての米ロ首脳電話会談が行われた時に、プーチンは「経済制裁を解除する」というトランプからのひと言を期待していた。しかし、トランプからはその言葉はなかった。そして、翌日の1月29日にロシア軍はウクライナ東部への猛攻撃を開始した。シリアでも猛攻撃に出ている。

 プーチンに思わせぶりな耳障り良い言葉をささやきながら、期待された取り決めを反古にしたトランプ。自分の都合の良いように相手を翻弄し、ギリギリのところで約束や協定を無視し、相手の面子を潰す。ナスティーなトランプの典型的な交渉スタイルであるが、町の不動産屋のオヤジフゼイによるこの種の瀬戸際外交は極めて危険である。

参考記事 “Putin to Trump: Lift Sanctions or Ukraine Gets It”, Newsweek(2月9日)
http://europe.newsweek.com/putin-trump-lift-sanctions-or-ukraine-gets-it-554691?rm=eu

 ファクタ記事「フリン辞任で米入国制限混沌」によれば、1月27日に新政権はテロリストの移民を排除する目的で、イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンからの入国を阻止する大統領令に署名した。移民に職を奪われるかもしれない中西部ラストベルトの白人労働者には受ける政策ではあるが、米国の安全保障問題専門家はこの措置を「テロ対策に逆効果」と判断した。ケリー前国務長官やヘイデン前CIA長官(ブッシュ政権下)ら10人の元政府高官が連邦裁判所に「米国の安全保障を危険にさらす」としてトランプを訴えていた。対テロ戦争の前線に立たされる米兵が危険にさらされる可能性があるというのがその理由である。(ファクタ3月号 p.16-17)

 これでは、新たな米ロ冷戦が進行し、世界は多極化し、不安定になるだろう。トランプ瀬戸際外交が失態を続ければ、ロシアや中国、北朝鮮、イランなど核保有国はそれに乗じて勢力拡大を目指すだろうし、当然、各地で地政学リスクは高まるだろう。

 メディア、国際金融資本、情報機関らを敵に回してまでも国内でトランプが政権をどこまで維持できるか。
   

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