グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

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原油市場始まって以来のマイナス価格、金融市場は壊れてしまったのか?

 日々「異常事態」が起こる。この数日間は原油価格がマイナスになるというニュースが報じられた。

「コロナショック → 景気後退 → 世界の原油需要減少 → 原油供給過剰 → 原油価格下落」という流れで、実物の原油を貯蔵するスペースがない、お金を払って原油を引き取ってもらうという事態となった。

 実物資産の先物取引では原油とは対称的にゴールド(金)価格は上昇を続けている。金は需要が高まり、価格が上昇。いざという時にデリバリーが間に合わないかもしれないという恐怖が忍び寄る。

 実物資産を裏付ける証券と実体的な資産のデリバリーには、常にタイムラグと価値の剥離が生じるリスクがある。

 さて、トランプ大統領はいざとなれば石油業界をも救済するつもりであろう。何しろ、コロナショックが起きて以来、財政刺激策で政府は大盤振る舞いし、FRBも債券市場を全保証するほどの信用供与を辞さないでいる。

 下のグラフは、1970年からの金融危機と政府による救済策の資金規模を示している。ドイツ銀行Jim Reid氏が作成した。左側は10億ドル単位で救済策の資金規模を示している。右側のパーセンテージは米国も含むG7諸国の政府負債がGDPに占める割合を示す。

 1970年から金融市場には多くの危機があった。全ての危機に政府や中央銀行が介入して来たわけではない。そうした介入は、2008年リーマンショックを機に一気に増えた。まず、棒グラフを見ると、2008年、10年、12年に矢継ぎ早にQE(金融緩和策)で多額の救済資金を金融市場に供与した。2015-18年にはECBも大規模な緩和策を実施した。

 そして2020年、コロナショックの対応で、政府は実にすでに10兆ドル!を救済策に充てる。これはG7のGDPの280%で、さらに300%以上に上昇すると予想される。これこそが異常事態である。

 往年の金融関係者たちは、「政府やFRBがここまで手を出して全てを支配しまっては、リスクに対する合理的なリターンは計算できないし、市場では合理的な価格形成ができなくなっている」と嘆く。自由な金融市場は壊れてしまったのか?

 リーマンショックから10年の間に、市場は常にQEで甘やかされて、今も「パウエル・プット」の麻薬を打ち続けている。今は非常事態で国家による統制がやむを得ないとしても、コロナ感染拡大が収束した後(ポスト・コロナ)には正常時に戻れるのか?言い換えれば、いつまで「モラルハザード」が続くのか?

1970年からの金融危機と政府による救済策の資金規模
1970年からの金融危機と政府による救済策の資金規模

 モラルハザードとは、保険料を支払っていないのに保険金だけ受け取る詐欺と同じで、リスクをとることなくタダでリターンを横取りしようとする。モラルハザードは堕落への近道である。以前にもこのコラムで紹介したナシーム・タレブの『身銭を切れ:「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質』(原題: Skin in the Game)を読んで、明日に備えよう。

コロナ第2次感染リスクがこの冬に再び高まるとの予想が出ている。私は大体3−6ヶ月くらい先を予想しているのだが、この先リスクはまだまだやってくる。

身銭を切れ 「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質

  • ナシーム・ニコラス・タレブ(Nassim Nicholas Taleb)
  • ダイヤモンド社
  • (2019/12/12)

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