グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

PR

米中貿易協議「第1段階」署名、その落とし穴とは

 日本時間の1月16日、米中は貿易協議「第1段階」で合意し、署名式がホワイトハウスで行われた。

 米国では株価が続伸し、トランプ大統領は苦々しい弾劾裁判から少し解放され、また、中国では来週24日(金)から始まる春節(旧正月)の期間を当局は少しホッとして過ごせるかもしれない。

米中貿易戦争の激化の中、双方にとって「やれやれ」となった一時的な合意だが、実は第2、第3段階に進む前に、根本的な問題を含んでいる。今後のリスクについてまとめておこう。以下の内容は、Fortune (1/17/20付)記事 “We asked 6 experts to parse the China trade agreement. Here’s what the US won (and lost)”, by Erik Shermanを私なりに解釈してまとめたものである。

米中合意 2000億ドル(約22兆円)の中身 (Fortuneより引用)

1.最大のリスク「規範のなし崩し erosion of norm」

今回の合意によれば、2017年に米国から中国への輸入額1298億ドル(ベースライン)から、2020年には2065億ドル、2021年には2530億ドルに増やす。これはかなりの増加を意味する。

しかも、輸入額のターゲットを設定すること自体が「管理貿易」であり、自由貿易の原則や規範に反する。

中国が目標値を掲げ米国への輸出増加に邁進する場合、他国への輸出を制限しなければならないケースも出てくるだろう。貿易は、米中二国間にとどまらず、両国の他の貿易相手国にも影響し、結果、世界全体に波及する。

米中が「管理貿易」に邁進すれば、世界の自由貿易の規範はなし崩しになる。一番困るのは自給自足力のない日本であろう。

2.農産物生産者にとって過度な集中

 トランプ大統領は大統領選挙を睨んで、中西部のラストベルト地帯と農業生産地帯の票を確保したい。今回の米中貿易合意で特に目立つのは、米国農家の輸出先が極度に中国に集中している点である。

 米国農務省によると、2017年の米国からの農産物の輸出総額は1382億ドルであり、うち中国への輸出は196億ドルで、全体の14.2%だった。今回の合意によって、中国への農産物輸出額が、2020年に321億ドル、2021年に391億ドルに増加すれば、米国は特に大豆の輸出先として極度に中国に集中することになる。

 もっとも米国農家にとっては、政府が補助金280億ドルを承認したことから、カネが自国政府から来るのか中国から来るのかどちらでも良いのかもしれない。何れにしても、政府への依存度が高まることは、農業生産者にとって将来大きなリスクである。

3.将来的な強制力なし

 第1段階の合意では、大きな懸案は先送りしている。米国は中国政府に対して産業補助金や国有企業の構造改革を求めているが、中国は内政干渉としてこれを拒んでいる。この種の米国のやり方は日米貿易戦争でも見られたが、確かに競争力を高めたいのであれば岩盤規制を取り崩すために中国は「外圧」を国内でうまく政治利用することもありかもしれない。

 それから、知的財産権、強制的な技術移転についても以前よりもポジティブな歩み寄りが見られるが、将来に渡る相互の強制力はない。この場合、トランプ大統領は大統領選挙を睨んだ短期決戦で臨み、長征(長期戦略)に基づく中国はすでにその足元を見透かしている。

コメントは締め切りました。