グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

サプライチェーン・ショックのドミノ倒し、ブラックスワン現れる!

 2003年頃の話だ。私がまだマンハッタンで仕事をしていた頃、大物投資家のサスマン氏がナシーム・タレブが運用するファンドを組入れるというので、そのミーティングに参加するためにグリニッチまで出かけた。ナシームはボラティリティー・トレーディングを専門としていた。

 私はナシームとの出会いを『ウォール街のマネーエリートたち:ヘッジファンドを動かす人々』(日本経済新聞出版社 2004年)に記した。その時の会話で、ナシームは「ブラックスワン」(ありえないリスク)とは2001年9月11日の世界同時多発テロのようなものだと語った。サスマン氏と私は衝撃的なリスクをヘッジする手法について、ナシームの説明を聞いた。

 その後、2007年にナシームは『ブラックスワン:不確実性とリスクの本質』(日本語版2009年)を出版した。その時の「ブラックスワン」は、リーマンショックだった。

 今回の「ブラックスワン」はコロナショックである。多くの金融専門家が新型コロナウィルスを、市場に対する「ブラックスワン」警告とみなしている。つまり、これは世界同時多発テロやリーマンショックのとごく、市場にとってただならなぬ事態と認識しているのだ。

 英字ニュースによると「日本では患者にHIV医薬品を投与した」と報じられている。このことから、この感染は通常の風邪ではないウィルスによるものと推測される。例年のインフルエンザであれば乾燥した冬が過ぎれば感染が収まる。しかし、コロナ患者は亜熱帯のシンガポールやマレーシアでも現在増えている。感染拡大は暖かくなっても続くかもしれない。

 FT紙記事によると、中国では武漢をはじめ大都市が封鎖されている。グラフは中国100都市の交通の動きを示している。

road congestion across 100 chinese cities

 例年であれば、春節が終わると人々は田舎から都市へ戻り、交通量が増える。しかし、今年は春節の後ほぼ全ての活動がストップしたままである。現に武漢を軍が取り囲み、人々は外へ出られない。この状態が今後数ヶ月も保つとは思われない。

 武漢をはじめ中国は世界の工場の中核となってきた。今はサプライチェーンが寸断され、「サプライチェーン・ショック」がドミノ倒しになって、周辺国へ波及している。日本も例外ではない。部品が調達できない、工場が稼働しない、製品を納入できない、支払いができない、労働者は解雇され、工場閉鎖・・・企業はカネが回らない状態が数ヶ月続く。銀行も債務悪化し、中小企業も破綻に追い込まれるだろう。株価下落、債券デフォルト、金融危機が世界同時多発的に起こる。

 リーマンショックでは、リーマンが破綻し、デリバティブ市場が壊れてウォール街が一夜にして破綻寸前の淵に立った。金融危機から信用収縮へと波及し、実体経済を壊していった。私の知人もリーマンとは何の関係もないのに、メガバンクの貸し剥がしにあって黒字倒産させられた。危機に備えていないと同じことが繰り返し起こるだろう。

 今回のスーパービックなブラックスワンは、まず実体経済を壊す。日本にとってはアベノミクス終焉をもたらす。さらに、地政学的に見ると、中国と朝鮮半島の流動化、拙著『円消滅!』(ビジネス社 2016年)で示した最悪のシナリオも視野に入ってくる。

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