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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

【奥山真司×大井幸子 後半】2020年代 金融・デジタル通貨・安全保障・技術戦争はどうなっていくのか?/国際金融と地政学から見た未来予想図

 Youtubeで対談した奥山真司さんとの動画の内容を前半・後半に2回連載でご紹介します。テーマは「近未来を予測する」です。この記事は後半です。前半記事から読まれることをおすすめします。


奥山真司(おくやま・まさし)さんのプロフィール

戦略研究家。国際地政学研究所上級研究員。戦略研究学会理事・企画委員。日本クラウゼヴィッツ学会理事、副会長代理。

カナダのブリティッシュコロンビア大学に入学、地理学科および哲学科を卒業。英国レディング大学大学院戦略学科で修士号及び博士号(2011年)を取得。コリン・グレイに師事した。日本の地政学や戦略学の最新の知見を紹介し続けている。


世界の主要なチョーク・ポイント

奥山:世界地図を見るとだいたい海峡や貿易で通過するところがチョーク・ポイントになっていますね。

 この概念を言い出したのは、イギリスの歴史を勉強してきたアルフレッド・マハンさんです。イギリスが日の沈まない国として維持できた理由は何かなと考えた時に、やっぱり主要な海峡をしっかりと握っていたからだと分かった。それで、海の交通の要衝をチョーク・ポイントとしたんですね。

 イギリスも日が沈まない帝国って言われていましたけど、海軍も数が限られます。海軍だけで世界を握るためには、海峡をしっかり握っていてそこの交通を管理していたのが強みでした。

 パナマ運河は、最初はフランスが作り始めて止まっていたんですが、アメリカの国力が上がってくるにしたがって、パナマ運河が必要だよねっていうことになって、アメリカが完成させました。

 こういう、自分を優位にするために、ポイントだけ握って効率的にコントロールするというのは金融の世界においてもやっぱりあるんじゃないかと思うんですがどうですか?

大井:大英帝国は、世界中の資源を支配していたってことですね。例えば南アフリカの金とか、鉱山とか、中東のオイル。金融の面でいうと、そうした世界の資源を富に変える「取引所」がチョークポイントですね。

 資源価格を決定する取引所が、ロンドンに集中しています。

通貨発行権は取引所より上位のチョーク・ポイント

奥山:私は通貨発行権が金融におけるチョーク・ポイントになるんじゃないかと思うのですが、どうですか?

大井:通貨発行権は大きな権力であり、チョーク・ポイントです。国を豊かにする際、自国でお金を自由に増やす力を握っていることが重要。国の信用力をバックに通貨を発行するのは、具体的にいうとFRBとか各国の中央銀行になります。

 世界の中央銀行の中で誰が一番えらいかというと、米国のFRB。FRBの発行する米ドルが、世界の基軸通貨で広く流通していて、ドルの海になっています。

 そして下位のチョーク・ポイントとして、取引所があって、株が交換され、商品先物、金が取引されています。

 こうして、アセットの価値はFRBの発行する米ドルが中心となって決まります。また、米ドルを基準として、各国通貨の価値が決まる。

奥山:スタンダードを決める力ってやっぱり強いですね。

大井:中国は人民元を世界の通貨にしたいという夢があり、アメリカに対して覇権争いを仕掛けています。

 まず、中国は人民元の暗号通貨を準備しているが、米ドルはどうやって対抗しようかと考えていて、通貨発行権をめぐる対立があります。

 次に、通貨が流通するには、決済をする場所が必要になります。今は、電子決済になっていて、決済システムを運営する人が強い。大きな決済システムとしてはSWIFT(国際銀行間通信協会:国際的な決済ネットワークで200以上の国や地域が参加)があります。国を跨いで米ドルで取引をする場合の大半はこのSWIFTが使われます。

奥山:例えば共産党の幹部の人たちがどっかにお金を送金したりとかすると、そのお金の動きとかは決済システム握っているほうが見て管理できるということになりますよね。アメリカが決済ネットワークを握っているとすると、すごい権力ですね。

 そうしたシステムを超えるためにも、中国は人民元の暗号通貨化が必要なのでしょうね。

大井:そうですね。それから、暗号通貨を流通させるには電力が必要ですよね。

奥山:電力・エネルギーの供給源はどこになるのかがチョーク・ポイントになりそうですね。そうすると、昔に活用された地政学の知識がまた重要になってきそうですね。

安全保障、技術、金融をトータルで考えて戦っていく必要性

奥山:自分がインターネットの世界における物理的なチョーク・ポイントを上げるとしたら、ガルパンっていうアニメで最近有名になった茨城県の大洗町っていう町があります。そこが実は日本のITにとって重要で、大洗町から太平洋に向かってものすごく太い海底ケーブルが伸びていて、海外に繋がっています。

 安全保障の観点からは、こうした地点のセキュリティは非常に重要で、チョーク・ポイントになります。似たようなチョークポイントはないでしょうか?

大井:そうですね、特許・技術ですね。5GやAI技術といった知財です。

奥山:サーバーとかもそうですね。ITに必要なロボットの技術をどこが持っているのか。シリコンなどの素材を作れる会社はどこにあるのか。そういうところも一つのチョーク・ポイントになり得そうですね。

大井:そうすると、実体的なアセットとしてどういったところで富を生むのか。その力が必要になります。

奥山:日本を上から目線で見ることも大事なんじゃないかなと思います。

大井:日本にも量子コンピューターやスパコンといった高い技術がある。でもなぜそれがチョーク・ポイントとして使えないのか。それは日本の安全保障がゆるゆるで、すぐ盗られてしまうためです。

日本としては安全保障の実体的な問題と、技術、そして、金融をトータルで考えて戦っていく必要を感じています。

奥山:私は、日本の弱みは軍事力を自分で独立して持っていないというのが最終的には効いてくると思っています。

2021年に米中コロナ戦争は終結し、2020年代は戦後処理の時代へ

奥山:今、世界の覇権国であるアメリカは中国に対してものすごく危機感を持っていると思います。中国は特許・技術の分野では、千人計画とかいろいろやって技術者を世界から集めてといったことをやっていますし、通貨の分野では人民元の暗号通貨化を図ろうとしています。

 総合力に勝るアメリカが中国をどう潰すのかというのが未来を占う上でポイントになってくると思います。

大井:中国を完全に潰してしまうと、自分たちの取り分がなくなってしまいます。

 アメリカの考え方だと、今はコロナ戦争だと、中国発のコロナでこんな大変な目にあったから賠償しろと言うわけです。金で返せと。

 アメリカは戦後処理まで見据えて、交渉して、どうバランスをするのかという戦い方をします。

奥山:中国を潰した後に、どうやって資産を吸い上げるのかというところまで考えているということですね。

大井:もちろんです。アメリカはやるときは徹底的にやりますからね。

 2021年までにこうした動きがあって、その後の10年間は中国の戦後処理と、世界秩序の再構築が行われると思います。

 本日お話ししたチョーク・ポイントもどんどんアップデートされるでしょう。貿易海運から、ITといった技術も加わっていきます。

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