グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

米当局の矛盾する銀行救済政策、市場リスクは高まる

利上げ続く欧米

 皆さん、ニュースでもご存知のように3月22日にFRBパウエル議長は予想通り0.25%の利上げを実施しました。シリコンバレー銀行とシグニチャー銀行の地銀2行が破綻し、地銀の破綻懸念が広がる中、FRBは金融引き締め続行します。同様に、欧州ではECBが16日に0.5%利上げ、英国中央銀行も23日に0.25%利上げを実施しました。

米国市場の反応

 22日には利上げの発表後、午後2時半からパウエルFRB議長の記者会見がありました。パウエル氏は「これまで通りインフレと戦う、銀行破綻のリスクに対しては既に救済措置を取っている、利下げは当分無い」と「タカ派」発言を繰り返したものの、その一方で、「利上げ停止」の可能性も示唆しました。全体に以前よりもトーンが「ややハト派」に受け取られ、マーケットでは5月に0.25%の利上げを実施し、その後は利上げ停止になると見られています。

 パウエル氏の記者会見の発言の後に株価は上昇しましたが、その直後に同じ時間帯に議会行われていたイエレン財務長官の証言内容が報道されると、株価は急激に下げました。22日にはS&P指数が前日比 -1.65%と大幅安になりました。その翌日、23日には株価は小幅に反発しました。

 マーケットの動きには「リスクの高い資産から安全資産への逃避」が見られます。債券や金価格が上昇しています。このため、長期金利が低下し、日米金利格差が縮まり、やや円高に動いています。

イエレン氏の議会証言

 今、イエレン財務長官とFDIC(連邦預金保険公社)グルエンバーグ総裁が米議会に呼ばれ、金融サービス委員会で上院議員から多くの質問を受けています。質問は、誰がどのように銀行破綻の危機をハンドリングするのか、今後どのような政策を実施するのかなど、詳細に渡ります。

 例えば、シリコンバレー銀行とシグニチャー銀行の地銀2行の破綻に関して預金者が100%の預金保証を受けると政府は発表しました。が、この措置に対しオクラホマ州のランクフォード上院議員が「オクラホマ州のすべてのコミュニティバンクに対しても100%預金保証の措置を取るのか」と質問し、そして、イエレン氏は「それはない」と答えています。裏には「すべての銀行に預金保険公社からの全額保証があるわけではない」との財務省の意図があるのです。

詳細: 2023/3/19 相次ぐ銀行破綻 モラルハザードで、バイデンとイエレンは資本主義を破壊する https://globalstream-news.com/230319-2/

 そして、22日には議会の金融サービス委員会で、イエレン氏は「預金保険公社への全面的な資本増加は考えていない」”NOT considering broad increase in deposit insurance”と発言しました。この発言が報じられると、22日には銀行株を中心に株価が大きく下げに転じたのです。

 マーケット関係者の間では、パウエル氏が「銀行預金は安全である」と発言する一方で、イエレン氏の発言には矛盾する内容があり、一貫性を欠いているといった不信感が広がっています。あるトレーダーは、「イエレンの発言の中身はHold my beer (銀行預金が安全であるかどうか、今から起こることを見ていてごらん)だ!」と評しています。このように、銀行破綻の危機に際して、金融界トップの二人の発言内容に食い違いがあることで政策の舵取りに対するマーケットの信頼が揺らぎ始めると感じます。

参考:(Bloomberg 2023/3/23)Differing Powell and Yellen Messages Were a Lot for the Stock Market to Digest https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-03-22/dueling-powell-and-yellen-feeds-was-lot-for-stock-market-to-digest

「大き過ぎる政府」がCBDCで金融・経済を支配

  イエレン氏の発言は今後、株式市場に大変マイナスな影響を与えそうです。例えば、破綻したシグニチャー銀行の処理についてですが、同行ボストン支店で運営していた暗号通貨を扱うSigNet の運営は破綻後どうなるのか?

 米国FOXニュースの著名ジャーナリスト、タッカ・カールソン氏は、一連のイエレン氏の動きは政府による「中央銀行デジタル通貨 CBDC」導入に繋がっていくと発言しています。具体的には、キャッシュレスと暗号通貨の廃止をもって、国民一人ひとりの「電子台帳」がCBDCで管理され、政府に紐づけられる。そして、政府が一人ひとりの経済行動(いくら収入を得て、いくら何に消費している等々)を一括して管理するシステムをセットしていく・・・こうしたシナリオに沿って、バイデン政権は着々と政策を進めているのです。

 あるマーケット関係者は皮肉をこめて「イエレンはバイデン政権に献金する銀行を救済し、そうでない銀行は救済しない」と指摘しています。金融政策を政治支配の道具に使う、政府の特定のイデオロギーに従う金融機関とそうでない機関を分けて、前者だけを生き残らせる、総じて、政府が経済・金融を支配する・・・この目論みが成功すれば、資本主義の破壊と民主主義の崩壊が起こり、デジタル・ファシズムへ移行します。そうした動きを止めるには、バイデン政権から共和党政権への「政権交代」が必要です。

 今後、破綻処理が続き、イエレン氏が議会で矛盾する証言を繰り返すとなれば、銀行から預金者の資金流出が続き、銀行株の株価下落が続くと予想されます。

欧州銀行危機は続く

 欧州においてもクレディスイス破綻の余波は今後も引き続きます。クレディスイス発行の債権処理など詳細情報は「ヘッジファンド・ニュースレター」でお伝えしています。もっと頻繁に逐次世界の金融経済・マクロ情報を必要される方は、是非「ヘッジファンド・ニュースレター」をご購読ください。

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