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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

破綻国家アフガニスタン、タリバン移行政権の行方 カリフ制神権国家と中国による経済支配

 カブール空港での自爆テロや米国海兵隊員の死など、連日、多くの混乱が報じられています。タリバンが支配するアフガニスタンでは国際社会からの援助は止められ、ドル決済は止められ、まさに破綻寸前です。

 今後、タリバン移行政権が支配を進めると、国や経済はどうなるのか。

1.タリバン国家のゆくえ

 タリバンとは「神学生」という意味で、モハメッドの教えを忠実に守る「原理主義者」です。彼らはイスラム教が統治する「カリフ制」を理想とし、教義が権威となる神権国家を目指します。タリバンは国会を開設すると言ってはいますが、おそらく世俗権力の上位に「宗教指導者(聖職者)」がいて、その人物が最高指導者として国を指導する体制になると思います。

 こうした体制はシーア派国家のイランに似ているかもしれません。イランでは、世俗の権力者=ローハニ大統領と、最高指導者=ハメネイ師との二段構えで、大統領は行政のトップではありますが、国民の文化や精神性に関わるイデオロギー面では、宗教指導者の権威が最強です。タリバン政権はイランよりも強い聖俗一元的なイスラム原理主義を貫くと予想されます。

 バイデン政権は、アフガン内部の軍事基地を破壊しないまま空軍を撤退させてしまいました。そのため、国内には多くの武器が残され、これがタリバンの手に渡っています。米軍撤退後、タリバン政府への移行期にある国内では、すでに公開リンチなど凄まじい人権抑圧や略奪が起こっていると報じられています。

 今後、国際社会はアフガン国内から逃れてくる難民をどう受け入れるのか、人道支援をどう続けられるのか、多くの難局に直面するでしょう。

 そんな中で、タリバン政府はどのような外交を展開できるのか。彼らは「カリフ制」を拡大するためには、ジハード(聖戦)を名誉とする勇敢な兵士です。もともと戦闘を繰り返して領土を拡大していった膨張国家「カリフ制」が、国際社会でどのように諸外国と平和裡に外交関係をつくっていけるのか。

 実際、アフガン国家の歳入の6割近くが、国際社会からの援助金です。こうした資金が途絶えた今、タリバン移行政権の喫緊の課題は、国際社会からの援助を取り戻し、経済を立て直すことです。が、自国民を国外へ退去させるのがやっとの先進諸国にとって、当面は援助から遠のくのではないかと思われます。そこにやってくるのが、中共です。

2.中共がタリバン経済を牛耳る

 アフガンの人口は3890万人、一人当たりのGDPは581ドルと、194カ国中184位(2020年)の最貧国です。また、労働人口の44%が農業に従事する農業国です。日本からの支援としては、中村哲医師による灌漑用水事業や医療事業が多くのタリバンそしてアフガン人を助けたことは、広く世界に知られています。

 さて、タリバン政権は、前号でもお伝えしたように、イデオロギー上は絶対に受け入れがたい中共と接近し、一帯一路経済圏に取り込まれようとしています。中共は多くの資金を提供し、アフガンのインフラ整備を進めると同時に、アフガン北部に眠る1兆ドル(110兆円)規模の資源を狙っています。特に、AIやスマホに欠かせないリチウム、レアメタル、そして、ウラニウム、金や銀といった未開発鉱床を狙っています。タリバン政権が中共の「債務の罠」にハマり、国富を奪われるのは目に見えています。

引用:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-08-24/QYCI5TT0G1LA01

 このままでは、アフガンは中国の経済的植民地となります。国内では、もともと多民族国家であることに加え、タリバン政権に刃向かう別の過激派勢力(ISなど)や内部での派閥抗争が激化し、無秩序と暴力が横行し、破綻国家となるでしょう。

 もう一点、タリバン経済で重要なのがアヘンです。アフガン北部には鉱床があり、南部ではケシ栽培が盛んです。国連薬物犯罪事務所(UN Office of Drugs and Crime: UNODC)によると、このOpium economy(アヘン経済)はGDPの7%から11%を占め、11万9千人を雇用し、12〜21億ドルのアヘン剤を輸出(密輸)しています(2019年統計)。下のグラフは国別のアヘン生産を示し、アフガンが全世界の85%のアヘンを生産しています。

 こうした違法薬物の生産や密輸は地下経済として栄え、南部の貧しい農民の生活の足しになっています。法の支配が弱い中、アフガンのアヘンは麻薬密売組織と結びつき、タリバンの武器調達資金としても使われていると言われています。

 下のグラフは地域別のアヘン使用者数(UNODCによる推計値)を示しています。アフガンからのアヘンは世界中で6千万人以上の需要を満たしています。

 中共は、アフガンの鉱物資源とアヘンの生産と流通を牛耳ることで「一帯一路経済圏」を人民元の海とし、ユーラシア大陸での覇権を揺るぎないものにしようとしています。このことは、ロシアやインドといった大国との間で多くの紛争や緊張を産むことになります。

 バイデン大統領が、8月15日にアフガンから軍を撤退させた過ちによって、世界は急激に不安定化に向かっています。

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