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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

「鷲の翼に乗って」米軍撤退後、アフガン残留者はどうなるのか?

満州、そして、アフガニスタン

 私は以前、日本橋倶楽部の皆さんと一緒に、宝田明さんの舞台を観に行ったことがあります。それは、宝田さんが自身の人生を振り返り、歌とセリフで物語るというミュージカル風のお芝居でした。

 宝田明(現在87歳)といえば、戦後の東宝映画の大スター。宝田さんのお父さんが満鉄の技師だったため、一家はハルピンで8月15日の終戦を迎えました。そして、満鉄の社宅にソ連軍が侵攻する中、一家は命からがら脱出しました。その時の実体験を宝田さんはこう語りました、「隣のおばさんが目の前でソ連兵に強姦蹂躙される中、私たちは暗いうちに駅に向かい、列車に飛び乗った。列車に乗り込むと置き去りにしたはずの犬が私たちのあとを追って走ってくるのが窓から見えた。走り出す列車の中で、ゴメンねゴメンねと言いながら一家で号泣した」。

 このシーンは、中国残留孤児や、今アフガン残留となっている人々の様相と重なるのです。

 8月15日に、バイデン大統領は、英仏などNATO加盟国への事前承諾もなく、アフガンから米軍を撤退させました。しかも、撤退の期限は31日でした。なぜこんな条件での撤退になったのか?加えて、ジョンソン英首相の度重なる緊急電話にバイデン 大統領は36時間近くも応答しなかったと報じられています。

 米国のアフガン撤退の始末のつけ方があまりにも最悪だったと、バイデン政権は批判にさらされています。ワシントンポスト紙(8/30付)によると、米軍は7月末以来、12万2千人をカブールから脱出させたが、まだ200人近い米国人がアフガンに取り残され、数千人の米国関係者(通訳や現地協力者、NGO、そしてその家族)も置き去りにされています。そして、カブールのアメリカン大学には4千人の学生、教授陣、従業員などが残され、タリバンの標的になっていると伝えています。

 ちなみに日本については、大使館やJICAの日本人職員は脱出できたらしいのですが、日本関係のアフガン人職員など約500人は置き去りにされたままです。その一方、韓国政府は、378人のアフガン人職員を自国民と共に退避させたと(誇らしげに)報じています(8/27付ANNニュース)。

 日本の撤退の仕方が後手後手だった、自衛隊が憲法に縛られてカブール空港にたどり着けない人々に救出の手を差し伸べることができなかった・・・様々なコメントが出てきています。が、ここでは政府ではなく、民間の力で残留者を救出しようとしている米国のケースに注目したいと思います。

タスクフォース・パイナップル

 グリーンベレー退役者たちが、独自のネットワークを通してアフガンから米国関係者らを退避させています。彼らは自らのグループを「タスクフォース・パイナップル」と名付け、この危険な任務「オペレーション・パイナップル・エクスプレス」を遂行しています。

 The War Zone記事によると、タスクフォース・パイナップルは、すでに500人のアフガン人を安全地帯に退避させ、8月16日以降、130人を救助しています。

 この危険な作戦で、多くの人々が救出されることを願っています。

参考記事

RealClearDefense(https://www.realcleardefense.com)

Operation Pineapple Express Saw Special Ops Vets Lead The Rescue Of Hundreds Of Afghans(https://www.thedrive.com/the-war-zone/42169/operation-pineapple-express-saw-special-ops-vets-lead-rescue-of-hundreds-of-afghans)

鷲の翼に乗って

 特殊部隊出身者やインテリジェンス関連などのプロが任意団体を結成し、民間で残留者救出を実行する― こうした救出作戦は、実際これまでも何度もありました。有名なのは『鷲の翼に乗って』(ケン・フォレット著 1983年)。実話に基づいた小説で、映画にもなりました。

 1979年、イランではパーレビ国王の体制が崩壊し、ホメイニ師を最高指導者とするイスラム神権国家が誕生しました。同年11月に米国大使館人質事件が起こり、当時のカーター大統領がこの救出作戦に失敗したことで、米国の権威は大きく傷つきました。

 当時、政府間の国交が断絶する中、米国Electronic Data System(EDS)社の社員2名がイラン政府に不当に拘束され、法外な保釈金を要求されるという事件が起こりました。EDSは、1992年に大統領候補としてクリントンとブッシュの間に入って「米国改革党」を立ち上げて戦ったロス・ペロー氏が創設した会社です。

ペロー氏については、2019年に亡くなられた時に当ニュースレターでも記事を書きました。

アメリカンバリュー ロス・ペロー(https://globalstream-news.com/20190711/)

 ペロー氏は、海軍兵学校卒、海軍大尉を退職後にビジネス界に入り、成功を収めたアントレプレナーです。この時のイラン革命で囚われた社員を救出するために、彼はベトナム戦争を戦ったブルサイモンズ大佐に特殊作戦を依頼します。政府に頼らず、自らの資金と戦略で、社員を無事救出します。そのハラハラドキドキの最後、イラン領空を脱出した後に、大佐のチームリーダーがEDSダラス本社に送ったメッセージが、「イーグル(鷲)は巣を飛び立った」でした。

 旧約聖書 イザヤ書 40章27-31節に、「鷲の翼に乗って」という言い回しの原型があります。そこには、神の約束を必ず守るという「誓い」と、その誓いを立てた者を神は必ず救うという意味が込められています。米国民は米国に対する忠誠を宣誓し、税金を払うことを約束します。そして、米国は米国民に対して必ずその生命と財産を守ると誓う、これが政府と国民との契約です。ペロー氏は自社の社員に対して契約を守ったが、バイデン大統領は国民に対して契約を守らなかった。今後、バイデン政権は国民の怒りに対して大きな代償を払うことになるでしょう。

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