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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

やめられない、止まらないインフレ

 11月10日に、10月の米国CPI(消費者物価指数)発表がありました。CPIは前年同月比6.2%と大幅に上昇し、ドルや金価格が値上がりました。インフレ6%台は31年ぶりで、FRBの2%インフレ目標をはるかに超えています。

 目下のサプライチェーンと物流の逼迫(感染再拡大で逼迫は続く)、原油や天然ガスなどエネルギー価格の高騰、食料品価格の高騰、家賃の高騰、ヘルスケアコストの上昇等々を鑑みると、10月のインフレ率は8-10%くらいに感じられます。この状況から、FRBがタカ派に転じ、予定よりも早めに利上げに踏み切るのではと憶測されています。

 FRBはインフレが「一時的」と考え、先のFOMCで金利政策正常化への方向性を示したものの、ハト派過ぎると評されています。元財務長官、ハーバード大学学長で経済学者のサマーズ氏は、このままバイデン政権の財政支出が増え続け、インフレが加速すると、米国はスタグフレーションに向かうか、さもなければ、不況のあおりでFRBは再び量的緩和と利下げに戻らざるを得ず、その結果、米国経済は「日本化 Japanization」し、長引く「デフレ不況」に向かうと警告しています。

 FRBはバイデン政権になってから既に5.8兆ドルを市場に注入しています。これは、米国GDPの個人消費の5分の2にあたる巨額の支出です。加えて、種々のインフレ要因は来年前半までは続きそうです。そうなると、企業、家計、政府にとって事態は悪化していきます。それぞれインフレでどうなるか。

  • 企業業績の低迷:企業はインフレでより高いコストを払うことになり、消費者に転嫁できない分、収益が圧迫されます。その結果、好調な業績は期待できず、株価は先行き弱含みます。
  • 中間層の貧困化:インフレが進行すると労働者は賃上げを要求します。企業は余剰労働力を減らし、ロボットで代替できる職種では失業が増えます。家計は物価高で苦しくなり、特に年金生活者など固定収入で暮らす人々は生活の質を落とさざるを得なくなります。
  • 財政悪化と悪い金利上昇:米国の政府債務は膨らみ続け、借金を借金で返済しています。イエレン財務長官は「金利が5%になれば借金返済に窮する」という主旨の発言をしています。インフレ退治でFRBが政策金利を上げると、市場では信用リスクが高まり、長期金利が跳ね上がるリスクが警戒されています。

 現在、米国のインフレの火種は火事になりつつあるようです。早いうちに消火しないと火はどんどん燃え広がります。インフレは山火事のように、「ヤバイ」段階になってから急には止まらないのです。1970年代がそうでした。オイルショックから始まったインフレと不況で世界経済は混乱し、FRBボルカー議長が大胆な金融引き締めでインフレ退治するまで米国の金利は一時20%近くまで急騰しました。

 インフレは当然、政治リスクに直結します。インフレと失業をもたらす政権は国民の信任を失います。バイデン大統領はこれまでもアフガン撤退の失策で人気が落ちている中、2022年には、中間選挙に向けて米国内の政治リスクも高まりそうです。

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