グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

金融地政学の観点から 中東情勢の不安定化で安全保障は資源、経済、金融と一体化

次回放送 2/29 20:00〜

 今の世界情勢の流れを知り、その先に何があるのかをお金の流れから読み取っていく、これがグローバルストリーム・ニュースの趣旨です。本年は選挙イヤーで、世界情勢が大きく変わります。軍事・安全保障の変化が資源の配分をめぐり、経済、金融システムに大きな影響を与えます。地政学と金融とがシンクロナイズする「金融地政学」の観点から、中東情勢の今後を見ていこうと思います。

(参考 今年の「選挙イヤー」に関しては動画をご覧下さい。https://www.youtube.com/watch?v=KSQVlp-XZPk&t=614s

中東で戦火が拡大

 ご存知のように、昨年10月7日に過激派武装組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃しました。ネタニヤフ首相はすぐさま「これはパールハーバーだ、我々は戦争状態にある」と声明を出しました。

 それから年明けて、今度は南イエメンのフーシ派が紅海を航行する商船に攻撃を仕掛けてきました。1月12日に、英米連合軍が応戦し、南イエメンを攻撃、14日にはレバノンのヒスボラがイスラエルをミサイル攻撃し、緊張が高まっています。ハマス、フーシ派、ヒスボラはイランがサポートするイスラム過激派です。

 15日にイラン革命軍がイラクをミサイル攻撃し、16日にはパキスタンを攻撃しました。イスラエルのパレスチナ自治区で始まった戦火は、今やイランを中核にその近隣諸国へと拡大しているように見えます。

 下の地図では、イランが隣国イラク、シリア、南イエメン、レバノンに勢力を拡大している様子、そして米国寄りのサウジがエジプトや湾岸諸国へ勢力を拡大している様子を示しています。

イランを取り巻く情勢、歴史は繰り返すか?

 1978-9年イラン革命を経て、イランは白色革命で政権をとった親米(もしくは米の傀儡)パーレビ国王を亡命に追い込み、ホメイニ師を指導者とする政教一致の政治体制に移行しました。そもそも革命の発端は、1973年10月の第4次中東戦争でエジプトとシリアがイスラエルを奇襲攻撃し、その後イスラエルが反撃して戦火が拡大し、ペルシャ湾封鎖、原油価格高騰で世界がオイルショック不況となり、原油輸出国であったイランもその煽りを受けて経済的に困窮し、民衆の怒りが急速な近代化・世俗化を推し進めたパーレビ政権転覆に向ったのです。

 その後、1979年にはテヘランでアメリカ大使館人質事件が起こり、イランと米国の関係は最悪になります。そして、1980-88年はイラン・イラク戦争が起こりました。イランはソ連から、イラクは米国から支援を受けた代理戦争でした。もともとイラン(シーア派)とイラク(スンニ派)には宗教上の違いがあり、そこにペルシャ湾の油田を巡る利権の対立が重なり、代理戦争に発展しました。1989-90年のソ連崩壊でこの戦争は終結しました。

 しかしその後、米国は1991年の湾岸戦争(ブッシュ父)、そして2003年のイラク戦争(ブッシュ子)でイラクのフセイン政権を倒し、再びイラクに影響力を持ち、その隣国のイランに敵対し脅威を与えています。

 2023年10月のハマスによるイスラエル攻撃に始まった中東情勢の不安定化は、ちょうど50年前の第4次中東戦争からイラン革命までの流れと重なってくるようにも見えます。目下、シリア、レバノン、パレスチナ自治区ではテロへの警戒が高まっています。こうした中東情勢には、戦争屋や米石油大手、投資銀行、アラブ王族、貧しいパレスチナ移民、イスラム原理主義テロ組織など複雑な利権が絡んでいます。映画「シリアナ」(2005年)は、元CIA工作員の実話に基づいたドキュメンタリーで、中東の仮想国「シリアナ」で繰り広げられるそれぞれの策謀を描いています。ジョージ・クルーニー扮する主人公のスリルとサスペンスに満ちたドラマです。中東情勢がどのようなものか実感するにはこの映画を鑑賞されることをお勧めします。

今後、原油はどこからどこへ行くのか?

 今、イランの後ろ盾にはロシア、そして中国があり、反米をスローガンに利益共同体を作ろうとしている集団、グローバルサウスの動きがあります。その中にはサウジも含まれます。これまでの米国一極覇権構造が裏付けとなってきた世界の原油市場とペトロダラーが、揺らいでいるように見えます。それでは、ロシアやイラン、サウジの原油が輸出できないとすると、原油はどこからどこへ行くのか?

 下の地図は米国の原油、天然ガスのタンカーがどこへ向かっているかを示しています。米テキサスのヒューストンから欧州へ、そしてスエズ運河の航行が困難なため、アフリカ大陸最南端を回ってインド洋を通過し、アジアへ向かっています。欧州の米に対する資源依存度は増加しています。そして、スエズを通過できないことでアジアへの輸送距離が1.4倍に延びて、その分輸送コストが資源価格高に反映されると予想されます。

 こうした輸送コスト高はやがて物価高につながり、インフレ再燃が懸念されます。特に日本ではロシアに加え仮に中東からの輸入も途絶えた場合、中長期にわたる資源エネルギー政策をどうするのか、喫緊の経済安全保障の課題に直面しています。

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