グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

米国で資本主義の破壊と共産主義革命、「グレートリセット」が進行中

  個人的なことですが、40年以上前に小室直樹氏主催の「小室ゼミ」に参加し、大塚久雄『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』やマックス・ウェーバーの宗教社会学、森嶋通夫『Marx Capital』(数学でマルクス経済学を解説)を学びました。その時学んだことを思い出し、今の米国の状況と重ね合わせると、バイデン民主党極左政権による政策が以下の2点を意図したものであることが分かります。第1に、ウェーバーが指摘したプロテスタンティズムの倫理を破壊する、第2に、マルクス経済学が解説した資本主義が機能するメカニズムそのものを破壊する。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

「プロテスタンティズムの倫理」の破壊政策

 アメリカ建国史を紐解くまでもなく、ピルグリムファーザーズが1620年にメイフラワー号でプリマスに到着し、本格的なピューリタンによる植民が始まりました。彼らの信仰の基盤となったカルヴァン派の精神構造と行動様式は、やがて植民地経済の発展とともに米国で独特のエートス(心的態度)を醸成していきました。

 アメリカ独立宣言の起草委員となり建国の父と讃えられるベンジャミン・フランクリンは、そうしたピューリタンのエートスを世俗化して具象化した人物として興味深いです。彼は「フランクリン自伝」の中で、勤勉、規律、節約、誠実、清潔、科学的合理性といった「実践的な徳」を著しました。また、英国の植民地支配から経済的自由を追求し、絶対王政のような権力の集中を忌み嫌いました。

 ピューリタニズムをベースとした精神は独立宣言や米国憲法に読み取れるのですが、その精神的支柱となった基本的な市民のエートスは21世紀の今、崩壊の危機に晒されています。これは今に始まったことではなく、おそらく100年近くかけて世代交代とともにグローバリストが仕掛けてきた「文化的、かつイデオロギー的闘争」の成果ともいえます。

 特にコロナ禍を経て政府に対する信頼が低下し、若者層の中には親の世代の考え方を否定する動きもあります。例えば、節約や規律は「YOLO (You only live once) 人生一度きり」のスローガンに置き換えられ、一度きりの人生を楽しみたいがために物質的欲望を制御できない、収入を超えた支出が止まらない、クレジットカード使い放題といった生活態度になる。あるいは、勤勉、誠実は「動物的欲望の解放」に乗っ取られ、ドラッグやセックスに溺れる、好き勝手に犯罪を犯す・・・さらに社会的エリート層も「自分だけ、金だけ」の目的で働き、「公共の福祉(コモンウェルス)」に貢献する倫理観を失っていく・・・アメリカはこんな社会に成り下がっていっています。かつての支配層WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)はもはや絶滅危惧種のようです。

 バイデン政権になってから1千万人近い不法移民が流入し、さらにカリフォルニア州では軽犯罪を取り締まらないために万引きがやりたいになるなど、民主党政権の州では社会不安が急速に広がっています。このようにプロテスタンティズムのエートスが破壊されていくと、金融経済政策においてもモラルハザードが起こり、具体的には「資本主義のメカニズム」を破壊する動きに繋がっていきます。

「資本主義のメカニズム」の破壊

 カール・マルクスは『資本論』において資本主義の特徴を著し、かつ歴史的必然性から資本主義が成熟した後にプロレタリア革命により資本主義体制は崩壊し、その後に社会主義が登場、さらに高度化した共産主義に帰結するという主旨を『共産党宣言』で示しました。

 資本主義が成長していくメカニズムのエッセンスは利子が利子を生み、掛け算で指数関数的に増えていく「資本の増殖」の仕組みにあります。利子(利息、金利)は時間とともに増えていきます。例えば、あなたがお給料をもらって欲しいものをすぐに買って元金を使い果たすとお金は増えていきません。しかし、一部節約して貯金するとそこに利子がついてきます。利子とは「禁欲して待つ時間分のコスト」のようなものです。よって、金利はプラスでなければならない。マイナス金利はすぐに有り金を使えという行動を促すもので、禁欲すると罰金を取られることになります。まさにYOLOの行動様式を推進するようなものです。このようにゼロ金利やマイナス金利とは資本主義の原則と禁欲のエートスを破壊するものです。

 ではこうした資本主義経済にとってあり得ないようなことがなぜ起こるようなったのか?きっかけは2008年リーマンショックでした。世界同時金融恐慌を防ぐために、当時のオバマ政権下でFRBはゼロ金利や政府の無制限の量的緩和といった政策を実施し、また政府は銀行業界や自動車業界などを忖度して財政的な支援をしました。これは一時的な緊急措置だったはずですが、その後8-9年続きました。

 金融危機後、金融市場はすっかりFRBに乗っ取られ、政府も財政支出を拡大し、個人も政府も借金し放題、モラルハザードが広がったというわけです。

米国住宅事情から見えてくる私有財産の没収

 今、家族で住める一軒家を持つという「アメリカンドリーム」実現がかつてないほど困難になっています。一般的な戸建て住宅価格が年収の5倍以上に高止まりし、かつ、住宅ローン金利の上昇で毎月の住宅関連コストが上昇しているためです。

 グラフはセントルイス連銀による全米の戸建て住宅価格(中央値)の推移を示しています。米国の住宅価格は上昇し続けてきましたが、特に住宅バブル(2003-08年)とリーマンショック後(2009-19年)、そしてコロナ禍で都会から郊外への移住が増え、需要が膨らんだ時(2020-22年)に、価格が急激に上昇しました。現状で住宅価格が40万ドル以上ですから、ミレニアム世代やZ世代といった若年層は学生ローンや自動車ローン、クレジットカード支払いに追われ、持ち家は高嶺の花となっています。彼らは経済的自立を諦めざるを得ないのか?

 そんな中でやっとマイホームを手に入れた挙句、ちょっと留守にしていた間に「スコッター」に占領されてしまった・・・こんな被害が数万件も発生しています。前述したとおりアメリカでは1千万人近い不法移民が流入し、勝手に留守宅に住み着いてしまう不法占拠者「スコッター」が社会問題になっています。警察は通報を受けてもスコッターを追い出すことはできず、所有者は裁判を起こさなければならず、その間の負担は大変なものです。

 一般市民にとって住宅取得が困難になる中、不法移民が押し寄せ不法占拠や犯罪が増え、地域の治安が悪化しています。さらに景気が悪化していけば、低所得層は家賃が払えずにホームレスになるケースが増えていくと予想されます。米国の底辺では、「労働力を売る以外何も持つことがないプロレタリア」が大量に作られている・・・こんな不安に駆られます。

 こうした中間層の貧困化があと10-20年続くと、本当に私有財産を持てない無産階級プロレタリアートが街に溢れ、住む家もないスコッターがプロパガンダで組織化され、暴力的なプロレタリア革命の下地が整っていく・・・米国で共産主義革命が起こり、グレートリセットが成就する。今の極左政権の目論見はかなり見えてきています。

 米国はジョージ・オーウェルのSF小説『動物農場 Animal Farm』のような社会になるのか?

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