米大統領に見るリーダーシップ: Never Give an Inch 日本の政治家との違い: Skin in the Game
この週末にかけてトランプ氏(前大統領、現大統領候補)の暗殺未遂事件がありました。皆さんと同じように、私はJFケネディの暗殺と安倍元首相の暗殺を思い起こしました。トランプ氏は危機一髪、神技とも言えるタイミングで銃弾が彼の頭蓋骨を貫通せずに生き残りました。知人はこの一件について「暴力はいけないとかいったメディアの話はナンセンス、これは米国内のテロ、国家転覆だ」とコメントしました。
7月15日に共和党大会が始まり、これから11月5日の選挙まで同じような暗殺が計画されているかもしれませんし、まともに選挙が実施されるのかどうかも不確かな状況です。仮に選挙が公正に行われトランプ氏が再選されても、大統領就任前か後も常に暗殺の危険にさらされるでしょう。それでもトランプ氏のカリスマは危機を克服するごとに強さを増し、米国民の圧倒的な支持を受けるようになるとみられます。
党大会では、副大統領候補に39歳のジェームズ・デイヴィッド(J.D.)ヴァンス氏が指名されました。オハイオ州の貧困家庭出身、高校を出ると海兵隊に入りイラク戦争で戦い、その後名門イエール大学ロースクールで学び、金融業界で働き、上院議員まで出世したミレニアル世代のホープです。彼の自伝的小説「ヒルビリー・エレジー」(郷愁の哀歌)は2016年に出版されるとベストセラーになり、2020年に映画化されました(映画予告編 Netflix)。かつて米国の繁栄を支えた鉄工業などが衰退し「錆びついた工業地帯 Rust Belt」に取り残された貧困化する中間的生産者層だった白人たちの苦しみを描いた問題作です。
今、私はマイク・ポンペオ前国務長官の回顧録「Never Give an Inch: Fighting for the America I Love」を読んでいます。ポンペオ氏もトランプ2期目の政権で何らかの要職に就くと思います。カンザス州下院議員だった彼もトランプ氏の信頼を得てCIA長官、そして国務長官の要職で活躍しました。その回顧録を読んでいくと、トランプ政権のスピーディーでダイナミックな人事や物事の進め方がよく理解できます。ちなみに「Never Give an Inch」とは、一歩も退くな、諦めるなといった意味です。
余談ですが、以前「Game of Inches」にちなんだ記事を2本書きました。この言い方は、アメリカンフットボールのイメージで一歩一歩前進して攻め込み目的を達成するといった感じが出ていてわかりやすいです。外交やビジネスの交渉でよく使う表現です。
GSnews:“Game of Inches”、米国覇権の凋落の始まりと地政学リスクの高まり Red Sea Operation Prosperity Guardianから見えてくること・・・
GSnews:Game of Inches・・・キッシンジャー氏の死が象徴するもの バイデン政権の地政学上の失態
さて、トランプ氏が選抜したJ.D.ヴァンス氏とポンペオ氏には共通点があります。
- 軍隊での経験がある(ポンペオ氏はウェストポイント出身)
- 弁護士資格がある(ポンペオ氏はハーバードロースクール)
- 実業の経験がある(ポンペオ氏は実家の製造業の企業を経営)
二人とも、戦争の現場で戦い、その後専門性の高い資格を持ってビジネスの経験を積んで、地元に戻って政治家を志し、選挙で勝ち抜いて議員となっています。日本の世襲政治家と比べるとその実力と心構えに大きな違いがあります。
さらに二人に共通しているのは、強い愛国心に満ち、かつ個人的にはクリスチャンとしての信念と良心を持って行動している点です。神の教えに従い、米国民を導くというミッションを政治家として体現しています。
具体的に日米の政治家にどんな違いがあるのか?ポンペオ氏の回顧録から2点について紹介します。
- 果敢にリスクを取って挑戦する
ポンペオ氏はオバマ外交を覆すために、国務長官としてまずロシア、中国、北朝鮮に対して「America was back in the game and willing to take risks」(米国は交渉を再開し、国益のためにリスクを恐れない)というメッセージを送り、態度で示しました。つまり、綺麗事を並べて成果の出せなかった民主党政権に代わり、これから現政権との交渉がタフであることを相手に分からせ、牽制し、一歩一歩是々非々で目的を達成していく態度を示しました。例えば、トランプ政権は北朝鮮に対し「鼻血作戦」(反撃のチャンスを与えず一発で仕留める)をちらつかせて厳しい態度を取る一方、トランプ氏は金正恩氏との対面での交渉に応じました。
- エートス(倫理観)を重視する
ポンペオ国務長官は高い職業的倫理観Ethosを組織に浸透させることで、国務省を国益に忠実な外交を行う専門組織に改革しました。
今、日本の政治空間では日本国民が生き残るためには何が国益であり、その目的のためにどのような手段を取るべきかといった中長期的な戦略的議論もなく、かつ、それを実行するために国内外で果敢に戦える政治家はいるのでしょうか。他人事の評論家のような言葉ではなく、軍隊やビジネスで体を張った実践体験を踏まえて論理的に戦略を語れる日本の政治家はあまりいないと思います。英語で「Skin in the game」(身を持って体験する=自らリスクを取って成果を上げる)という言い方があります。そうした日米の政治家の質の格差が国力の格差になっているのかもしれません。世襲政治家ではない、ポンペオ氏のような、あるいはヴァンス氏のような新しい時代のリーダーシップを日本の政治家にも望みたいです。
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