Game of Inches・・・キッシンジャー氏の死が象徴するもの バイデン政権の地政学上の失態
今年もあと2週間ほどになりました。
2023年は2020年3月に始まったコロナショックとコロナ禍が明けて世界が「正常化」に向かった年です。今から振り返ると、あのロックダウンや「三密」といった騒ぎは一体何だったんだろう?といった感じです。コロナ後の今、世界の潮流(グローバルストリーム)は大きく変わろうとしています。
この大きな変動は2016年のBrexitやトランプ大統領の登場から少しずつ表面化してきました。そして2020年3月のコロナショックとその後のバイデン政権発足からは、グローバリストと反グローバリストの対立図がかなり明確になってきたようです。
しかし、米国の極左政権が引き起こした国際秩序の亀裂と、各国それぞれの内部事情も相まって、世界は単純な対立図で説明されるわけではなく、問題はかなり複雑系です。事態は日々、少しずつ(1インチずつ)動き、半年も経つと状況がかなり変動しているのが実感できます。国際情勢は列強同士の「Game of Inches」(陣地を1インチずつ攻め合って奪還し目的とする勝利に導く)戦いです。私たちにとっては、そうした利害の流れの方向性と先にある自国の利益を見極めていくことが重要です。
今年11月29日にキッシンジャー氏が100歳で亡くなりました。1970年代、キッシンジャー氏は二つのニクソンショック、そして「ペトロダラー」の仕掛け人として活躍しました。しかし、彼がグローバリストの手先として一歩ずつ積み上げてきた(”Game of Inches”)世界秩序が変更を余儀なくさせられています。キッシンジャー氏の功績については、当ニュースレター8月9日号(https://globalstream-news.com/230809-2/)でお伝えしています。
キッシンジャー氏の死は米中接近とペトロダラーによって作られた世界秩序の変化を象徴しています。米中はデカップリングし、グローバルサウスの出現で原油生産国のロシアとサウジが接近し、米国は脱炭素化に舵を切っています。そして、米国内ではバイデン政権が石油業界を敵視し、原油を原料とする動力源に制限がかかり工場がフル稼働せずに、ウクライナとイスラエルへの武器で爆薬やその他の物資の製造と供給が間に合わない、下手すると自国で必要な武器兵器備蓄も足りないといった事態に陥っています。
またウクライナといえば、12月11日にゼレンスキー大統領が3度目の訪米をしました。女性まで前線に送り込んで大量死させ、それでも「国民の最後の一人まで戦う」と息巻いているゼレンスキーは「カネなし、武器なし、兵士なし」の状況にあります。訪米の目的はいつもの「おねだり」ですが、今回は米から期待した支援金や援助を一切得ることはできませんでした。10月に下院議長に就任したジョンソン議員(共和党)からは「これまでの米からの支援金の使途明細を出さない限り新規の支援はない」とキッパリ言われる始末です。こうした情勢から私は年明け極寒の冬にロシア軍が攻撃し、春先までにウクライナはロシアとの停戦に応じなければならなくなります。
さてキッシンジャー氏といえば、国際関係を徹頭徹尾リアリストの観点で分析した学者というイメージがあります。今ユーラシア大陸で起こっている事態を見ると、グローバルサウス諸国がいかに地政学の観点から巧妙に自らの勢力を拡大しようとしているかが見て取れます。【地図1】はロシアの原油や天然ガスをムンバイまで運ぶ海上ルートに代替する新しいルートで、ペテルブルクからカスピ海を通りイランを抜けてムンバイに至る南北の回廊を示しています。
【地図1】
また【地図2】の横の点線は中国から東西に伸びる経済シルクロード(一帯一路)を示しています。そして、パキスタンのグワダル港から北に伸びるルート(縦の点線)は「中国パキスタン経済回廊 China Pakistan Economic Corridor (CPEC)」と呼ばれ、中国ウィグル自治区からアフガニスタン、パキスタン、インドのカシミール地域の国境沿いを通過します。この地域は最も複雑な紛争の地域で、アフガニスタンはユーラシアにおいて東西南北のルートの要に位置し、地政学上大変重要なポイントです。
このアフガニスタンからバイデン政権は2021年8月に撤退をしました。20年にわたるタリバンとの戦いの結果、タリバン戦闘員がカブール空港に攻め入る中、味方を残したままの撤退は「惨劇」と酷評され、米国の支配能力の劣化を世界に見せつけることになりました。この時点から米国覇権へ疑念や信頼への揺るぎが各国で高まり始めたと思います。これまでキッシンジャー氏が一歩一歩積み上げてきた米国覇権の信頼がバイデン政権の失態で一気に崩れたともいえます。中露印、イラン、サウジなどの中東諸国は、バイデン政権下の米国弱体化を利用し、相互関係強化に動いているのです。
【地図2】
総じて、バイデン政権の3年間で世界秩序が大きく変化してきたことが読み取れます。そして来年11月には大統領選挙があります。来年以降の世界情勢を知る上で、次の大統領が誰になるかがキーポイントだと思います。外交政策の失態とインフレで不人気のバイデン政権に勝ち筋が見えていません。
ストラウスとハウの共著 ”The Fourth Turning”(フォース・ターニング)によると、歴史は80年周期で繰り返されます。今から80年前といえば1944年、第二次大戦の終盤です。1945年8月に第二次大戦は終わり、民主党ルーズベルト大統領は終戦前の4月に亡くなりました。この歴史の転換点と今とを照合すると、おそらくバイデン政権は米国の覇権低下という意味での敗戦を引き受けて消え去り、2025年からは新しい共和党の時代が始まるでしょう。
共和党候補のトランプ氏が大統領に再選されるかどうかは定かではありません。が、たとえば1980年の選挙でイランの人質奪還に失敗し世界に失態を晒した民主党カーター大統領が敗北し、「強いアメリカ」を掲げたレーガン氏が当選したように、2024年には愛国心に溢れた強いリーダーの出現が期待されています。
(注)フォース・ターニングについては当ニュースレター2020年5月17日号をお読み下さい。 https://globalstream-news.com/the-forth-turning/
コメントは締め切りました。