グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

Deglobalization=Unwinding globalization

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Deglobalization

グローバル化の巻き戻しで日本にチャンス!

スマート・シティの標準化を目指せ

 「中国での労賃が上昇したため、製造業はコストの安くなった米国へ逆戻り」-10月7日付けフィナンシャル・タイムズ(FT)紙の記事だ。

 経済の三要素ヒト、モノ、カネが国境を越えて自在に動き回る今、世界はグローバル化(Globalization)からデ・グローバル化(Deglobalization)へ向かっていると考える。これは単なるローカル化(Localization)とは違う。その象徴が「スマート・シティ」。次なる「カネのなる木」である。

 IT革命を経て21世紀に入ったちょうど10年くらい前から、米国は安価で優れた労働力を求めて中国へ工場を移転したり、インドのムンバイへシステム・エンジニアのアウトソーシング(外部への事業委託)を始めた。これがIT革命の第二フェーズだった。

 IT革命の第一フェーズでは、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツがPCとインターネットを融合し、個人が自由にネットで相互につながれるようになった。ビジネスではアマゾン・ドットコムのようなネット販売やオンライントレーディングが始まった。そして、第二フェーズでは「アウトソーシング」というビジネスのグローバル化が本格化した。世界は安価で良質な労働力を取引できる市場になった。

 この10年間で、米国経済が世界をけん引し、「ニューエコノミー」が知的所有権を「打出の小槌」のごとく富を創出するツールとして使い、米国の一国覇権主義、「グローバル・スタンダード」が確立した。

 その恩恵を受けたのが、中国をはじめとする新興国BRICsであった。中国は特に米国への輸出を支える「世界の工場」となった。中国は「奇跡の成長」を遂げ、インド、ブラジル、ロシアもまた世界の好景気の波に乗ったのだった。2008年のリーマンショックまでは。

 いまは、2年以上引き続くギリシャ危機が金融不安をあおり、欧米の景気は二番底へ向かいつつある。先進国では高い失業率、低い成長率、デフレ環境が来年前半まで続くと見られている。

 米国最大手の安売りスーパーのウォールマートは、中国で安い製品を作り、米国へ輸出してきた。しかし、米国では失業率の高さと貧富の格差拡大で、ウォールマートの安い品物ですら、財布のひもを締めている米国人の購買力を十分に喚起するにいたっていない。

 米国の住宅バブルで景気が著しく痛んだ州ではとりわけ失業率が高く、賃金水準もかなり下がってきている。たとえばフロリダ州では上海よりも半熟練工の賃金が安いという。中国では確かに労働力は豊富だが、未熟練の労働者が圧倒的に多く、熟練・半熟練工の労働力不足から労賃が上昇しやすい。    

 こうして、労賃の比較優位が逆転することで、グローバル化の波でいったん中国に拠点を移した製造業が米国に返ってくる「巻き戻し」がみられる。この巻き戻しがDeglobalizationといえる。

 世界景気が二番底を打ち、不均衡が均衡する時まで、巻き戻しが続き、「仕切り直し」が起こるだろう。その間に次の富を創出するビジネスモデルと産業構造が再編の時を待っている。Deglobalizationのリーダーは、ずばり「スマート・シティ」と私は予想する。人が生活するコミュニティには、エネルギー、インフラ、農業、漁業、移動手段としての自動車、家電、通信などあらゆる要素がぎっしり詰まっている。

 スマート・シティは、PCのように常にアップグレードしていくだろうし、あらゆる技術革新の核になる。しかも地元密着型だから、地域のニーズにそって多面的なバリエーションが可能だ。成功すれば、エコや環境にもやさしく、すそ野の広い産業構造が国民経済を支えるだろう。

 日本は環境にやさしいスマート・シティ関連の特許の70%を持っていると言われている。まさに、スマート・シティは日本再生の切り札だ。官民挙げて、オールジャパンで世界標準を早く創り上げるべきだろう。今、日本の生きる道はここにしかない。

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