TPP交渉参加がままならないなか、オバマ大統領との会談を1週間後に控え、安倍総理には米国に持っていく「お土産」がない。なかなか悩ましい。
バレンタインデーの14日には、気になるニュースがいくつもあった。第一に、FT(ファイナンシャルタイムズ紙)一面の米国と欧州連合が2年がけの自由貿易協定の話し合いを始めるという記事。第二に、円安を先読みした大手ヘッジファンド(グローバル・マクロ戦略)が二桁の収益を上げているという記事。第三に、大手ヘッジファンド(クレジット戦略)がジャンク債市場で空売り(ショート)を仕掛けているという13面の記事。そして、第四に、ドイツ経済のマイナス成長というニュース。欧州の景気は脆弱で、急激な円安・ユーロ高の矛先は日本に向けられている。
四つのニュースは相互に関連している。まず、米国と欧州の自由貿易協定は世界景気が回復した後のルールプランを決めるものだ。同時に、ジャンク債市場でショートをふる大手ヘッジファンドは信用市場の収縮と世界景気の失速を先読みしている。欧州経済の回復は2014年以降と予想される。欧米は2014年以降をにらんでの戦略をたてている。
欧米連合が確実の今、TPPの土壌にも上らない日本はルール支配からはじきとばされる可能性が高い。円安で収益を上げたヘッジファンドは、次にやってくる円高を先読みし、ショートをしかけてくるだろう。これまで日本株を買ってきた外人投資家もショートに回るだろう。このタイミングは幾度か短期的にやってくる。大きなモメンタムは、7月の参院選挙後アベノミクスの浮上効果が切れるときだろう。
4-6月期に日本では賃金が上がらないのに不動産や食糧・ガソリン価格が値上がるという「悪いインフレ」が感じられそうだ。日本の個人投資家はペソ建てメキシコ債券や不動産リートなどに投資をしている。千代田区の高級マンションが完売というニュースからもカネ余りなのだ。ただし、こうしたお金を使える人はごく一部である。日本では60歳以上のシニア層の消費が2011年に初めて百兆円を超え、個人需要の44%を占めている。その一方で、現役の若い世代や働く庶民の生活が豊かになっていく実感はあまりない。
もうひとつ気になるニュースが北朝鮮の核実験である。空からの核爆弾もさることながら、地下実験によって引き起こされる地震と津波の被害は相当大きなものになるだろう。2年前の大震災のときのように危機管理がなければ、海外の投資家かた見ると、日本リスクは再び高まる。
2014年以降、世界の新しい経済秩序が整備されながら成長が始まるとき、日本経済の力がなければ、円高から急速な円安に向かう。今年、日本が経済外交と金融政策のハンドリングを誤れば、円安、株安、債券安のトリプル安で、次の21世紀の本格的な世界経済の体制から取り残され、二等国、三等国へと転落してしまう。今が最後のチャンスである。
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