今週は、18日のFRBの予想外の決定について、山広さんのお話を伺います。
山広恒夫(やまひろ つねお)さんの略暦。
ブルームバーグ・ニュース・ワシントン支局エディター。1950年生まれ。73年青山学院大学史学科卒業後、時事通信社入社、同社外国経済部、ロンドン特派員を経て、英ジェームス・ケーペル証券シニアエコノミスト、共同通信社ロンドン特派員、ワシントン特派員、金融証券部次長を歴任。2000年からブルームバーグ・ニュース・ワシントン支局勤務。FRBウォッチャーとして、ブルームバーグ・ニュース・コラム「ワシントン便り」などで米国経済・金融政策について情報発信。
著書『バーナンキのFRB』(共著)、『オバマ発「金融危機」は必ず起きる!』(朝日新聞出版)
大井: 山広さんはつい最近、『2014年、アメリカ発 暴走する「金融緩和バブル」崩壊が日本を襲う』(中経出版)を出版されました。
この本で山広さんは、「2014年に米国に最大のバブル崩壊が始まる。リーマンショックが100年に一度の規模であれば、500年に一度というほどの規模である。米国発の危機は世界に波及し、同時不況となり、当然、日本の経済も破綻する可能性がある」と仰っています。
つい先週、9月18日のFRB政策決定会議では、量的緩和(QE)縮小(テーパリング)開始が先送りとなりました。さらに緩和が続き、バブルが膨らんで行くという状況にあります。そうなると、山広さんのおっしゃる危機の規模がますます巨大化します。株価は上昇していますが、失業率や景気が本当によくなっているのでしょうか?どこか空虚な感じがします。
山広:拙著で示しましたシナリオが徐々に実現に向かう兆候が表れ、今回のテーパリング狂想曲はその序章になるものと考えております。
まず、チャートをご覧下さい。
このところ発表された景気先行指標には、QEで常軌を逸している株や集計システムの問題で下振れしている失業保険申請件数などが含まれており、信頼感がなくなっているので、あえて、コンファレンスボード遅行指標としての「個人所得と借入比率」の軌跡を見てみました。
黄色のトレンドチャネル内では、個人の借入比率が2000年のIT株式バブル、続いて2007年の住宅・金融バブルと同時にピークに達して、その崩壊とともに低落。現在はQEのカンフル剤でやはり上昇に転じてきましたが、そろそろピークにさしかかってきたように見えます。平均的な消費者の所得は伸び悩んでおり、借り入れによりかなり無理をして住宅や自動車を購入しているのです。その無理な出費もそろそろ限界に近づいてきました。
ご存知のように、米国は大変な格差社会です。上位10%の富裕層が全株式資産の90%を保有しており、こうした富裕層や機関投資家が参加する株式、債券その他の金融資産のバブルの主役となってきました。いまや、これらのバブルも平均的な個人が描く軌跡と同じようにいずれバブル膨張の限界に直面すると考えています。しかし、真実はなかなか表面に表れてきませんので、見逃されている統計をさぐるなかで、今回のチャートに行き当たったものです。
繰り返しになりますが、現在の金融膨張は個人に限ってもバブルの限界に差し掛かってきていることが読み取れます。バーナンキ議長がこの時点で、市場の期待を完全に引き付けておきながらテーパリングを見送ったわけがわかります。テーパリング示唆で5、6月から市場が荒れ金利が上昇したのはバブル崩壊の予兆なのでしょう。これで、景気が腰折れする兆しが出てきたため、テーパリング(引き締め方向)はできなくなり、逆に金利押し下げへと動いたのでしょう。これは短期金利誘導政策が機能していた当時なら、景気循環の最終局面での初回利下げに相当すると言えると思います。
大井: テーパリングを見送った理由のひとつとして、個人の金融資産膨張のバブルを一気に破裂させたくなかったと言えますね。
山広: もう一度、チャートを見てみましょう。
黄色のトレンドチャネルは2000年から現在にいたるものです。2回のバブル膨張と破裂。そして今回のバブル膨張へとつながってきました。(直近は右軸の20.230%です) 白線は1982年11月のボトム(これは景気の谷と一致。遅行指標ではなく一致指数にも変身します)から長期トレンドを引きました。
1982年から世紀のバブル膨張が始まったと言えると思います。ブルーのトレンドチャンネルは1960年代から80年代初めにかけての3つのバブルの膨張と崩壊の軌跡が確認できます。
この統計は1959年までしかさかのぼれないため、直近に至る白線のようなトレンドは描けませんが、水準は低いものの、同様のトレンドを描いているはずです。
前回の景気の山は2007年12月でした。最終利上げは2006年6月。それからFF金利を5.25%に維持して引き締め、無意識のうちにサブプライムバブルを崩壊させ、金融パニックにあわてて07年9月に初回の利下げへと踏み切ったわけです。
今回の景気拡大局面では量的緩和の世界に変貌していますので、今年5月から6月のテーパリング示唆による市場金利の高騰が前回の最終利上げに相当します。その影響で住宅市場が腰折れに瀕したため、あわてて9月18日のFOMCで、テーパリングの見送りを決め、市場金利を押し下げたわけです。これは前回の初回利下げに相当します。この結果、市場金利は下がり、株価は上昇していますが、空騒ぎにすぎません。
07年は初回利下げの翌月に株価がピークを付け、その2か月後に景気後退に陥りました。時期はさておき、今回も同じ軌跡を描くことになりそうです。
大井: 2014年1月にはFRB議長が交代します。大きなトレンドが変わるときなのでしょうか。テーパリングに賭けていたグローバル・マクロ戦略のヘッジファンドは当てが外れて大きな損失を出すのではないかと懸念しています。
今後は山広さんの御著書も拝読し、さらに議論を深めたいと思います。