今回は国際経済学、開発経済学、アフリカの経済協力がご専門の坂元浩一さんにお話を伺いました。
アフリカは エネルギーと天然資源に恵まれたグローバル化時代の最後の「フロンティア」とみなされています。
アフリカの株式市場は90年代から自由化が進み、直接投資も含めて解放されています。通貨も変動相場制で、その意味では、国際資本市場の一角をなしています。
そのアフリカ経済の現状と今後の展望を語って頂きました。
<坂元浩一 さかもと・こういち プロフィール>
慶応大学経済学部、同大学院博士過程終了、経済学博士。
国連派遣アフリカ政府マクロ経済顧問(4年間現地滞在)、
(財)国際開発センター副主任研究員、慶応大学講師を経て、東洋大学教授。
坂元: アフリカという場合、中東からのアラブ圏の北アフリカ(MENA: Middle East North Africa)を除く、サハラ砂漠以南の「ブラックアフリカ」の国々を念頭においています。かつて「暗黒の大陸」といわれたアフリカは、エネルギーと天然資源に恵まれたグローバル化時代の最後の「フロンティア」というイメージです。
大井: 私はアフリカについて知識がありませんが、国際金融の観点からみると、2000年代にBRICs(新興国)が台頭し、世界経済が拡大するなか、アフリカもその恩恵を受けてきました。
さらに、リーマンショック後、世界経済が落ち込んでも、多くの投資資金が実体的な資源やエネルギーへの投資に向かい、アフリカ経済は資源高の利益を享受してきました。
ところが、ここに来て、FRBの量的緩和が縮小へ向かう動きと中国経済の成長鈍化が重なり、資源やエネルギーの需要が落ち込んでくると予想されます。そうなると、アフリカの経済成長にもかげりがでてくると思われます。
それと、中国による「黄色い植民地主義」の行方です。かつてアフリカは欧州の植民地でした。ベルギーなどの小国でもアフリカのかつての植民地には大きな利権を持っています。中国は植民支配者としては新座者ですが、具体的にどのような利権を求めているのでしょうか?
坂元: アフリカへの投資は、ご存知のように資源中心です。鉱物資源のマンガン、クロム、コバルトは、IT機器製造には欠かせません。南アでは金やダイヤが算出されますし、天然資源でいえばナイジェリアの石油。さらに農産物ではカカオやコーヒー、お茶があります。
また、アフリカの経済成長率は高く、過去5~6年は年平均5%の成長です。そもそもアフリカは1970年代のオイルショックの頃、資源ブームに沸き、インフラ投資が行われましたが、1979年から1980年にかけての先進国の不況のあおりを受け、債務を抱え財政は危機的な状況になりました。
その後、1990年代末から21世紀始めにかけて債務が帳消しになり、2005年のグレンイーグルズ・サミットでは、国際機関による債務も帳消しとなりましたから、それ以降、身軽になり、健全な経済政策で推移し、そして、いろいろな投資が行われ、成長率が高くなっています。
アフリカでは1980年代に経済の自由化が進みました。1979年に誕生したサッチャー政権、1981年に誕生したレーガン大統領の二人のリーダーが唱えた「新自由主義」が世界に経済自由化の流れを創り、アフリカもその波にまきこまれていったのです。1989年にベルリンの壁の崩壊以降、アフリカでは政治の自由化が進みました。
一方で、米国主導のIMFそして世界銀行が、アフリカに自由化と構造改革を条件に資金を提供しました。IMFと世銀、そしてウォール街と財務省が一体となった「トロイカ体制」が、発展途上国に大きな影響力を及ぼしました。
こうした体制は、貿易や投資の自由化を世界に拡大する米国の金融業界の利益に沿った政策とも受け取られました。1989年に国際経済研究所のジョン・ウィリアムソンは論文の中で、これを「ワシントン・コンセンサス」と定式化しました。
1990年から今日までを振り返ると、確かに貿易や投資の自由化が進み、世界には中国製品が溢れました。中国での1日1ドル以下で暮らす絶対的な貧困は減りましたが、世界の貧困問題はまだ道半ばです。世界の貧困率は減って入るものの、貧困の人数は増えているのです。
大井: 1990年後半からは新興国経済が台頭してきますね。開発途上国とか発展途上国ではなく「新興国」という言葉に置き換わりました。ワシントン・コンセンサスは変わったのでそうか?
坂元: 1997年のアジア危機に対し、IMFが緊急政策を求めたことは新興国の反発を招きました。新興国は、IMFの条件付き支援を批判し、西側は経済自由化を押し付けると考えています。アフリカでも、自由化の実態をみれば、公共インフラは依然旧宗主国の欧州勢が押さえています。
2008年のリーマンショックは、米国みずからが引き起こした国際金融危機でした。先進国の景気が後退する中、中国が改革条件無しにアフリカに援助をする動きに出ました。中国は、インフラ投資に力を入れ、これまでのワシントン・コンセンサスに代わる「北京コンセンサス」が華々しく登場しました。
大井: 中国とアフリカの関係はいかがでしょうか? 中国を「黄色い帝国主義」と批判したアフリカの中央銀行総裁もいます。
坂元: アフリカには百万人近い中国人がいます。アフリカでも貿易の自由化が進み、市場には中国製品が溢れています。中国は病院や学校も含む社会インフラの整備もしています。モザンビークには大型プランテーションを作り、食料確保にも力を注いでいます。
中国は国を挙げて資源確保に乗り出しています。中国発展銀行、輸出入銀行がインフラ開発を後押ししています。
アフリカの観点からみると、欧米も中国もアフリカの民間のキャパシティを超えた援助をしています。やはり、経済は民間で回すべきで、そうしたルールすら知らない中国がブルドーザーのように資源や食料の確保に乗り出しても、アフリカの自助努力を削ぐ結果になります。
こうした状況にあるかぎり、アフリカは自由化一辺倒ではいけないと思います。
大井: 日本にとってアフリカはどういう重要性がありますか?
坂元: 日本はG7の一員として「ODAでグローバル・パワーを発揮する」姿勢を貫いています。日本は、1990年代はODA大国でしたが、現在は1位から5位へ下げています。しかも、青年海外協力隊を始めとして民間レベルの援助です。
国際政治の観点から見ると、アフリカは重要です。アフリカ54カ国は国連での票数として大きな力があります。中国は日本を国連の常任理事国にしたくありません。その意味でも、中国はアフリカを取り込みたいのです。
大井: アフリカの資本市場は相当自由化されているのでしょうか?最近は、ヘッジファンドもアフリカへ投資を始めています。
坂元: アフリカの株式市場は90年代から自由化が進み、直接投資も含めて解放されています。通貨も変動相場制で、その意味では、国際資本市場の一角をなしています。
先ほども指摘したように、これ以上の自由化・開放は必要ないと思います。自助努力により自立した経済になってほしいと思います。
大井: それが長年アフリカ経済に関わって来られた思いなのですね。本日はどうもありがとうございました。
著書のご紹介
IMF・世界銀行と途上国の構造改革─経済自由化と貧困削減を中心に─
世界金融危機 歴史とフィールドからの検証─G20・金融制度改革・途上国─
コメントは終了ですが、トラックバックピンポンは開いています。