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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

ウォジンローア博士による金利予測

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中間選挙までの金利動向について

前の四半期と比べてマクロ的な環境はそれほど変わっていない。経済成長率はせいぜい3.25%程度にとどまっている。前年第四四半期の成長率は低めではあったが、その分、年明け第一四半期の高めの成長率で補完されている。

失業率は5%以下に落ち着き、求人広告もどんどん増えている。しかしながら、労賃や従業員福利厚生の伸びはあまりなく、その代わりに、企業収益が伸び、設備投資が活発化している。

労働力やその他の供給が限られているため、この先2006年のGDP成長率は、緩慢なものになりそうだ。その一方で、輸入の増加、信用枠の拡大、さらに販売広告の強化によって売上げはアウトプット(生産高)ほど落ち込まずにすむだろう。たとえ住宅価格が下がっても(それほど広範な下げはないと見ているが)、多くの人々は不動産価格が上昇した分、借り入れを続けるだろう。そのため、今年いっぱい、企業部門は好調と予想される。

さて、日本とドイツの景気は、これまでの長いトンネルを抜けて、速い速度で回復してきた。両国は、金融緩和から引き締めに動いている。現在の環境では、米国やその他の諸国からの需要が好調なため、両国は、引き締めによって景気拡大を未然に防いでしまうにことはしないだろう(過去の誤りは繰り返さないだろう)。とくに日本においては、量的緩和(このおかげで銀行は過剰な余剰資金を半ば強制的に積み立てたのだが)の終焉で、せっかく回復した個人への融資需要を減らすことはないと考えられる。短期金利を現行のゼロから1%まで徐々に上げても、国内景気回復の妨げにはならないだろう。

また、多くのグローバル投資家は円で借り入れ、その資金をもっと運用収益の高い諸国、主に米国に投資している。ドルに対して急激な円高にならない限り(円での借り入れに対して返済が高くなるため)、日本の当局が量的緩和終焉によって、この種のキャリー・トレードを相殺するような行為には出ないと予想する。
ところで、米国の短期金利の上昇は何らかの効果をもたらしているのだろうか。FRBは、利上げによって景気過熱に歯止めをかけるという見解を示しているが、じっさいにペダルを踏んでも、ブレーキは作動してないようだ。FRBは2年間利上げを続行したが、米国の成長は鈍化していないし、また、国際的な信用枠、雇用、収入の伸びも続いている。さらに、FRBの思惑とは反対に、長期金利と信用リスク・プレミアムは高まるどころか低下している。FRBは引き締めを予定したのだが、逆に、金融機関はいっそう大きなリスクを享受し、海外で借り入れ、取引量と収益を伸ばそうと行動してきた。

たしかに、企業収益は名目GDPの伸びよりも速い速度で拡大している。教科書的にいえば、競争市場において価格が下がり労賃が上がれば大衆に利益をもたらすのだが、実態はそうなっていない。FRBがエネルギー資源価格をインフレ試算に用いていれば(他国の中央銀行はそうしているのだが)、価格と収益上昇がインフレ要因になっていることが明確にわかるだろう。

このような状況においては、逆ザヤの利回り曲線はあまり経済的な意味をなさない。過去においては、逆ザヤの利回り曲線はリセッションの兆し、また、信用引き締めのみならず信用逼迫の前触れと考えられた。しかし、現状ではそのような予見は当てはまらないようだ。現在、信用市場は逼迫していないし、割高になっているわけでもない。信用逼迫を起こすことなしに利上げ続行というFRBのやり方は、一般には受け入れがたい。

いずれにせよ、目下のFRBのやるべきことは、インフレや失業を調整するというのではなく、公開市場委員会開催のたびに0.25%ずつ利上げを続行するという意味のないお決まりのやり方を自ら断ち切ることにある。もっと直裁にいえば、とにかく利上げを止めればよい。しかし、そうなると、投機筋は利上げがピークに達し、近い将来利下げに向かうと読み、その動きはやがて、今以上に無鉄砲な貸し出しを引き起こすだろう。

もちろん、利上げ続行を中止するさいに、近い将来再び利上げの可能性があると警告することはできる。しかしながら、マーケットはそうした警告を重視しないだろうし、さらに、次に当局が本気で利上げ再開を警告しても、当局の中途半端な言動に惑わされないようにとマーケットは行動するだろう。

FRBの内外では、次に何をすべきか、終わりのない議論が続いている。このことは、FRBの満場一致あるいは「透明性」の原則が終焉したことを意味する。GDP成長率の鈍化と穏やかなインフレ懸念(原油を除く)、そして、就任したばかりの新議長とその政策メンバーたちは、こうした先の見えない不安感をかきたてる要因となるだろう。

FRBの金融政策は、ブッシュ政権の財政赤字に対する態度に近いものになるだろう。具体的にいえば、口では「赤字はよくない」と言うものの、積極的な赤字削減を行うわけではない、現状維持というやり方だ。じっさい、米国がややインフレ懸念といっても(バーナンキ議長の称するターゲット2%までインフレ率が上昇したとしても)、そのことで、世界経済の牽引力たる米国の成長をリスクにさらすことは、世界中の誰の利益にもならない。よって、じっさいには積極的なインフレ対策はないとみている。

私の予感では、おそらくFRBはあと2度の利上げにより政策金利が5%に達したところで、6月には利上げを打ち止めにする。それから11月の中間選挙までは、利上げを行わずに維持する。私の考えでは、この間、本来ならば利上げは必要であり(もちろん0.25%ずつの決められたペースでの利上げだが)、その必要性については明らかになるだろう。ただし、そうした利上げによって、前任者(グリーンスパン前議長とそのスタッフ)よりも実効性をもって信用拡大や需要を抑制できるかどうかは、疑わしい。

世界は米国に安い商品やサービスを長期にわたり消費してもらいたいと願っている。その対価として、米国はドル通貨とドル建て証券を世界に提供し、潤滑な資金を得ている。そのおかげで、インフレが忍び寄ろうとも、繁栄は続くのである。

(注)ウォジンローア博士(Dr. Albert M. Wojnilower) は、ニューヨーク連銀でボルカー元連銀議長と机を並べた後、ファースト・ボストンで25年間チーフエコノミストとして活躍した。現在ヘッジファンド運用会社のアドバイザーを務める。その金利予測には定評がある。

このコンテンツは四半期毎の博士の金利予測を大井が翻訳したものです。

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