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ティーパーティ運動と米国の維新

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 1月26日、米国保守派の論壇を招いたアジア・フォーラム・ジャパン(AFJ)の懇談会に出席する。シリーズ「どうなるオバマ、どうなるアメリカ」第2回目の本題は、「ティーパーティはワシントンを変えるか」である。

 ウォール・ストリート紙コラムニストのジョン・ファンド氏、ティーパーティ運動の中枢フリーダム・ワークス広報担当のアダム・ブランドン氏、コラムニストのジェームズ・ルシア氏といった、今をときめく米国政治のご意見番たちと、アップデートな情報交換を行った。

 米国では草の根的なティーパーティ運動が展開している。歴史的にティーパーティとは1793年のボストン茶会事件を指し、「代表なくして課税なし」というスローガンは米国建国の原則となっている。TEAとはTax Enough Already(税はもうたくさん)を表し、国民に重い税を課す社会主義的な政府を排除し、「小さな政府」を柱とする財政保守を政策の中心に置いている。

 今回の懇談会ではティーパーティ運動の真の意味についてずいぶん勉強になった。以下、その要点をまとめておこう。

 第一に、この運動が、米国にとって「維新」Restorationであること。第二に、国民と政府の間をつないでいた政党やメディアなどのいっさいの仲介者を排除する、新しい政治運動であること。そのため、二大政党政治そのものの存在意義すら揺るがす革新的なプラットフォームを直接市民に提供している。第三に、グローバルな展開を可能にするシームレスなLegislative Entrepreneurship に基づくこと。

 こうした特徴は、IT革命が従来のビジネスの慣行を変えていった大きな変化の波と呼応している。IT革命とグローバル化が、ようやく政治体制へ影響を与えるようになったと見るべきだろう。以下、ひとつずつ詳しく述べていこう。

 第一に、「維新」とは、国を成り立たせる根源的な価値に立ち戻ることを意味する。日本の明治維新は天皇制への復古であった。昨年のNHKドラマ「龍馬伝」では、徳川幕府から明治への大変動が生き生きと描かれていた。

 19世紀後半、大名や武士といった既得権益にしがみつくだけの支配層は、産業革命を経て帝国主義時代に入った列強の動きとは無縁の「永遠の昨日」に生きていた。坂本龍馬は脱藩してどこの集団にも属さない自由な身であったゆえに、様々な利益団体(=有力諸藩や幕府のシンパ)と個別に交渉に入ることができたのだろう。むろん、彼のバックには武器取引による経済的利益と海援隊のサポートもあった。

 大政奉還による「維新」Restorationの原動力となったのは、「武士や大名がなくなっても日本人として生きる原点」としての御旗を天皇制とした「作為の契機」があったからだ。これを米国の学者は「Invented tradition 創られた伝統」と称した。

 一方、米国の維新とは、ピューリタン植民による建国の精神に立ち返ることだ。信教の自由を求めたピューリタンが造り上げた国家は、良心の自由、結社の自由、言論の自由、経済活動の自由などを国家が個人に約束している。この米国を米国たらしめる「憲法」の理念Original Constitutionこそ国家精神の原点なのである。

 第二に、ティーパーティは共和党一辺倒ではなく、また、党派を分けた運動でもない。参加者は地域ごとに組織化され、地元の政策について是々非々で議論し、よりよい政策を実行できる政治家に投票してゆく。党利よりも地元の実利を優先する。

 こうした自発的な参加者はツイッターやユーチューブなどITを駆使して、地域ごとにティーパーティ運動を組織化している。この動きは分散しながら広がっている。オバマ大統領がブログで政策を呼び掛けるといった中央集権的な発信基地としてITを使うのではなく、多くの利害関係者を巻き込みながらも、米国建国の精神からブレない「草の根運動」を全国津々浦々で展開している。

 第三に、ティーパーティは国際的な広がりを見せている。ブラントン氏は、米国のティーパーティ運動にプラットフォームを提供する「組織化」の祖である。彼によれば、各地域にハコの作り方を伝授するといったシンプルなもので、たとえばITの設定とか、メールリストの管理などバックオフィス的なノウハウの植え付けが主だという。通常の選挙運動のように大規模な動員やお金をかけてテレビCMを流すといったやり方はいっさいしない。あくまでも低コスト、効率性を重視した市民ボランティアの目線である。

 ティーパーティが国際的に広がる理由は、その国の事情に応じて人々が自在にプラットフォームを成長させていける柔軟性があるからだ。イタリアではイタリア風のティー、日本ではグリーンティー(緑茶)、インドではレッドティー(紅茶)など、それぞれの国で草の根的に広がっていく可能性がある。

 また、ティーパーティ運動は、これまで政治とは関わりのなかった市民に政治活動の起業家精神(アントレプレナーシップ)を吹き込んでいる。問題意識のある人たちが自発的に集まって地元の利益のために政策を論じながら連帯を深めてゆくとき、人々は新しい政治との関わりを実感しているのではないかと思う。旧態依然の政党政治ではない、タウンミーティングなど直接民主主義地に足のついたLegislative Entrepreneurたちの中から、これからの21世紀型リーダーシップのスタイルが生まれてくるだろう。

 さて、この懇親会で関心したことは、米国保守本流のエリート層は、巨額の財政赤字と社会保障の危機を深く懸念しており、今後、二番底のリスクも十分あると危惧している点だ。住宅市場が改善せず、銀行の不良債権が膨らみと財政規律の緩みから、金融危機の可能性も十分にリスクとして意識している。

 今年、オバマ大統領は再選のためには何が何でも失業率を下げたい。大統領が再選するためには、失業率が8%を超えては無理だという。米国の人口増加を考えると毎月15万件以上の雇用が創出しなければ、失業率は減らないという計算だ。減税など財政刺激策や金融緩和などあらゆる手段を取ると見られている。

 現在、ティーパーティへの参加者は一日2千人を超えるという。オバマ政権がなりふり構わなくなればなるほど、ティーパーティ運動は益々盛んになるだろう。

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